殺虫剤から「感染症トータルケアカンパニー」へ――川端克宜(アース製薬社長)【佐藤優の頂上対決】

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M&Aと海外進出

佐藤 いま全体の売り上げに占める虫ケア用品の割合はどのくらいですか。

川端 約3~4割ほどですね。私が入社した時はほとんどが虫ケア用品でした。

佐藤 相当に多角化したのですね。

川端 やはり一本足打法では時代の変化に対応できませんから。二本足、三本足くらいまでは経営の安定化のために必要だと思っています。

佐藤 積極的にM&A(合併買収)を行われていますね。

川端 2012年に入浴剤や育毛剤を展開するバスクリンを、2014年には衣類用防虫剤や除湿剤などを展開する白元アースを子会社化し、2017年にペット用品のジョンソントレーディングなどを合併しアース・ペットを設立しました。

佐藤 それぞれ競合する会社でした。

川端 M&Aでは、最初に二つのことを考えます。まずそのライバルが、ライバルのままいた方がいいかどうか。そのブランドが強いなら、ライバルでいた方が、切磋琢磨して弊社も強くなれる可能性があります。そして次に、合併しなければどうなるか。ライバルから脱落して消えていくのか、あるいは他の会社と合併してしまうのか。後者の場合は、さらに強いライバルになる可能性もあります。

佐藤 なるほど、ライバルの可能性を見極める。かつて日産自動車も、プリンス自動車工業と一緒になって強くなっていきました。

川端 その上で、先方の会社にも社員がいますから、2社で同じように広告費や販売促進費を使っていくよりは、一つになってそれを削減し、どのくらい社員に還元できるかを考える。他にも原材料の調達などでシナジー効果が見込めるなど、いろんな観点があります。だからM&Aは非常にやりがいがあります。

佐藤 子会社化後も、バスクリン、白元アースとも同じカテゴリーで、以前の商品がそのまま出ています。

川端 お客様に広く浸透したブランドですから。それらも含め、グループ会社は商品の幅を広げ、多角化展開をしっかり支えてくれています。

佐藤 海外はいかがですか。タイ、中国、ベトナム、マレーシア、フィリピンに子会社がありますね。

川端 数十年後のことを考えれば、日本は人口減、そして世帯減になっていきます。ですから会社のためには海外戦略を考えないといけない。

佐藤 確かに世帯数が大事ですね。

川端 家族形態が変わってきましたから、世帯数だけを見たらまだ増えています。でも人口が減れば、やがて世帯数も減ることになる。日本のマーケットはもう成長段階は過ぎて成熟段階に入っています。

佐藤 人口増加も経済成長も、今後はアジアとアフリカです。

川端 弊社の技術は、どこの国でも十分通用すると思います。また、いまの生活よりちょっといい生活を送りたい、快適に過ごしたいという願望は世界共通です。ですから、弊社の商品をその国にどのように浸透させるかが課題になります。

佐藤 だから現地に会社を置かれているのですね。

川端 日本の商品がそのまま売れるわけではありません。やはりその国の生活様式や嗜好に合わせて変えていかねばならない。

佐藤 サウジアラビアなら、宗教上の理由から、虫ケア用品の中にアルコールが入っていると使えなくなります。

川端 おっしゃる通りです。弊社は基本的に技術を提供するだけです。そして現地で徹底的に市場調査をして、それをもとに商品化していく。

佐藤 商品を土着化させていくということですね。それは現地の会社の経営方法や人事などでも必要でしょう。

川端 もちろんです。経営的には「郷に入っては郷に従え」をどこまで許容していくかが重要で、それがなければ進んでいかないと思いますね。

佐藤 会社案内にあった「人の生命を奪う生物ランキング」が非常におもしろいですね。1位は蚊で年間83万人が亡くなっている。

川端 2位は人間で58万人。3位はヘビで6万人、4位は犬で1万7400人。こうしたデータがあるそうです。

佐藤 蚊はマラリアやデング熱を媒介しますから、東南アジアなどの熱帯気候の地域では、虫ケア用品の需要は非常に高いでしょう。

川端 ヘビやライオンなら危ないから近づくなということができますが、蚊はそんなわけにはいきませんからね。感染症を減らすことは、虫ケア用品を扱う会社の責務と考えています。商品の販売だけでなく、「正しい虫よけ剤の使い方」といった感染症予防の啓発活動も行っています。

佐藤 将来の国内外の売り上げ比率など、目標はあるのですか。

川端 海外比率という言葉はあまり好きではないんです(笑)。それを定めると、数字ありきで進んでしまいます。先ほども話しましたが、日本の人口は減り、遠からず1億人を割るでしょう。一方、世界の総人口は80億人に達し、いずれ100億人を超す推計もあり、海外比率は放っておいても上がっていくと考えています。

佐藤 それはそうですね。

川端 また海外といったら、日本以外すべて海外です。その全部の国に出て行くことはできない。私どもはターゲットを決めたら、その国を深掘りしていきます。その国のお客様の困りごとをきちんと解決する。そうすることでも、海外比率は自然と上がっていきます。

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