ある日、突然妻と交際しているという若い男性が出現…話を聞くうちに蘇った自分の過ちが最終判断に与えた影響とは

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見知らぬ男が突然の訪問

 ただ、静佳さんは以前のようには仕事ができなくなっていた。本人も仕事への意欲を失っていたようだ。「やっぱりきついからパートで働きたい」と言い出したとき、大造さんはもちろん賛成だよと言った。

「ただ、僕自身も相当疲れていたんでしょうね。彼女が退職して、自宅近くのショッピングモールでパートとして働くようになったころ、今度は僕が体調を崩して2週間ほど入院しました。 これまで健康が当たり前だと思ってきたけど、お互いに気をつけなくちゃね、これからは子どもと健康を優先させようと話したんです。でも妻はだんだん元気になっていって、また仕事に没頭しはじめた。パートだけど社員への登用もあるということで、ショッピングモールの本部でバリバリ仕事をして……」

 娘が3歳になったころだ。休日、七五三のお祝いに買った着物を取りに行ってくると娘と一緒に出かけたまま、静佳さんは帰宅しなかった。携帯に電話しても出ない。夜になって警察に届けようとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。モニターには男が映っている。

「はいと言うと、『静佳さんのことでお話があります』って。あわてて玄関を開けると、若い男が立っていました。『静佳さんはうちにいます』と。とにかく上がって話そうと彼をリビングに入れました。どういうことなんだと聞いたら、『静佳さんと僕、つきあっているんです』と彼はごく自然に言うんです。一瞬、頭がこんがらがりましたが、この男は不倫を白状しているんだとわかった。彼は当時32歳、静佳より6歳年下でした。そのときはTシャツにシャツをひっかけて、下はジーンズというラフな恰好でした。彼は自分は職人だと言っていた。どうするつもりなのかと聞いたら、『静佳さん次第です』と他人事みたいに言う。きみはどうするつもりかと聞いてるんだとつい声が大きくなりました」

 つかみどころのない男だったと大造さんは言う。どうして妻はこんな男のところへ行ったのか。しかもこの男も、わざわざのこのこ夫である自分のところへよく来る気になったものだとも不思議に感じた。

蘇る己のあやまち

 彼は、静佳さんが前に勤めていた会社での後輩だという。そのころから彼女のことが好きだったが、本格的につきあうようになったのは静佳さんが産後、休職していたころだったと言った。休職した静佳さんを心配して、彼は連絡をとり、会うようになった。カラオケに行ったというのは彼とデートしていたのだろう。うつ状態になった彼女が頼ったのは、夫ではなく彼だったのだ。

「だけど彼女が復帰したあと、彼は今の仕事に転職した。彼女がやっぱりきつい、パートで働きたいと言ったのは、彼とデートするための時間の自由を確保したかったからのようです。あのころからずっと僕はだまされていたのかと愕然としました。でも彼には悪びれた様子がまったくない。静佳が来たから受け入れただけ、という感じでした」

 彼は、「静佳さんが帰りたいと言うまで、うちにいてもらってもかまいません」と言った。大造さんは「いや、そういうことじゃなくて、きみは人妻を拉致したようなものなんだよ」と告げた。その瞬間、若い日の自分の人妻との恋が、昨日のことのように思い出された。今思えば、あのころの自分には、彼女の夫である先輩になにも言えないままだった。それを考えると、この男はわざわざやってきた。鈍感なのか勇気があるのかわからないが、「僕は静佳さんの気持ちを大事にしたいです」と言えるだけ、あのころの自分より立派なのではないだろうか。彼はそう考えたという。

「妻とも話したいから、とにかく一度戻るように伝えてほしいと言って彼を帰しました。数日後の日曜日、妻が『ふたりだけで話せる?』とメッセージを送ってきた。もちろんと返事をすると2時間後に妻がひとりで来ました。娘は彼と遊びに行っているという。ごめんねと妻はけっこう明るい顔で言うんです。なんだか妻が別の世界の人になったように見えた。きみは不倫して僕を裏切って、別の男と一緒にいるんだよねと言ったら『そうね。ごめんね』って。全然悪いと思っている感じじゃないんですよ。こっちの感覚がおかしいのかと思うくらい。現実的にどうしたいんだ、どうするつもりなんだと聞いたら、『私はあなたが嫌いになったわけじゃないの。だけどあなたといると疲れるの』と言うんです。いや、ずっとふたりでがんばってきたじゃないか、仕事を続けたいと言ったのはきみだよと言うと、『仕事が楽しい、仕事が好きだと言わないとあなたに嫌われると思ってた』って。そんな話は聞いてないって感じですよ、こっちは。以前と言うことが全然違うんだから」

 あんなに仲良く生活してきたよね、娘のこともふたりで宝物だと言って育ててきたよねと、大造さんは過去の生活をひとつずつ上げた。大事な時間を共に過ごしてきたこと再確認したかったのだ。だが静佳さんの反応は薄かった。

「結局、彼のことが好きだということだったんでしょう。ただ、僕は離婚はしないと告げました。娘のことも心配だったし、あんなぼうっとした男と一緒にいて、静佳が幸せなはずはない、今は疲れているだけだと説得しようとした。妻は『また今度、話しましょう』と言って出て行きました」

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