封印されたウルトラセブン「第12話」 53年前の朝日新聞がきっかけで55周年でも欠番
被爆星人
ところが、放送から3年が経った1970年10月10日、朝日新聞の記事「被爆者の怪獣マンガ」で事態は一変した。
《「原爆の被爆者を怪獣にみたてるなんて、被爆者がかわいそう」――小学館(東京・千代田区一ツ橋、相賀徹夫社長)発行の「小学二年生」十一月号に掲載された一枚の怪獣漫画が、一女子中学生の指摘から、問題になっている。/問題の漫画は、怪獣特集として折込みになっている「かいじゅう けっせんカード」のうちの一枚。切取って勝ち負けのカード遊びができるようにつくられている。四十五の怪獣が並んでいる中で、人間の格好をした「スペル星人」は、「ひばくせい人」との説明書きがあり、全身にケロイド状の模様が描かれている。》(「朝日新聞」1970年10月10日)
記事によると、弟が購読していた雑誌「小学二年生」の付録に気づいたのは中学1年生の姉だった。ふたりの父親は東京都原爆被害者団体協議会の専門委員をしている中島竜美氏(1928~2008)で、普段から原爆問題を話し合う家庭だったという。姉は《実際に被爆した人たちがからだにケロイドを持っているからといって、怪獣扱いされたのではたまらない》と思い相談すると、中島氏は「小学二年生」編集長宛に《現実に生存している被爆者をどう考えているのか。子供たちの疑問にどう答えるのか》と手紙を書いた――。
この記事をきっかけに“被爆星人”が一人歩きを始める。
放送後のニックネーム
《朝日新聞が大きく報じたことで、全国の被爆者団体が「被爆者を怪獣扱いしている」と、小学館や円谷プロに抗議する事態へと発展した。10月21日、円谷プロは「今後一切、スペル星人に関する資料の提供を差し控える」と約束。こうして12話は完全に欠番にされた。テレビ放送やビデオへの収録はもちろん、怪獣図鑑などでも一切扱われなくなってしまった。(中略)確かに、放射能汚染による白血病をテーマにしたものだが、「被爆星人」というニックネームは物語のどこにも出てこなかった。実はこのニックネーム、フリー編集者の大伴昌司が、放送の翌年に出された彼の著書「怪獣ウルトラ図鑑」で初めて使用。このニックネームがおもちゃなどで広く使われたため、抗議に繋がったのだった。》(「新潮45」2004年11月号)
話を整理すると、問題となったのは小学館が発行する学年誌「小学二年生」の付録であり、放送から3年も経ってからだ。そもそも「ウルトラセブン」に登場する“侵略者”たちは、人間の形をした宇宙人が少なくない。加えて、スペル星人は番組内で「被爆星人」などと呼ばれてはいなかった。決して被爆者を怪獣扱いしたわけではなかったのだ。
2005年、写真週刊誌「FLASH」(11月22日号)が「なぜ『スペル星人』は放送禁止になった? 闇に葬られたウルトラ怪獣を追え!」という大特集を組んでいる。
これまでの経緯を踏まえ、制作の円谷プロやTBSのスタッフ、出演者などにも話を聞いている。そして抗議を行った当の中島氏にも取材した。
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