「何よりも選手の気持ちを優先」「プライドを傷つけないよう部屋に出向いて対話」 森保監督の監督術をコーチ陣が明かす

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「カバン持ちでも日本代表に関わりたい」

 森保監督と侍ジャパンの栗山英樹監督(62)は「若い選手とのコミュニケーションに卓越している」と並び称される。だが両チームには大きな違いもある。

「代表に懸ける選手たちの思いの強さ」だ。それはサッカーのW杯と野球のWBCの歴史や成り立ちの違いに起因している。WBCは残念ながら「真の世界一決定戦と呼べるのか?」とまだ疑問視されている。そのため、ケガや公式戦への影響を案じ、代表入りを打診されても「出るか、出ないか」を考えるプロセスがある。サッカーW杯は違う。国際的にその地位と信頼が確立し、あのメッシ(アルゼンチン)やモドリッチ(クロアチア)をはじめ世界のスーパースターたちが死力を尽くして国の誇りのために戦う。理屈抜きに真剣勝負の場だ。

 カタール大会が3度目の出場、長く主将も務めた吉田麻也は選手たちにしばしばこう話したという。

「日本代表は、自分たちだけで作ったものじゃない。先輩たちが築いてきた歴史をいま受け継いでいる。われわれは日本代表の誇りをいっそう輝かせなければいけない。日本代表が日本サッカー界の最高峰で、一番大事なものにし続けなければいけない」

 森保監督もことあるごとにこう語っていたという。

「たとえカバン持ちでも日本代表に関わりたい、それほど価値があるのが日本代表だ」

外国人監督で優勝した国はゼロ

 その森保監督には「W杯出場」「ベスト8進出」のほかに重要な使命が託されていた。森保監督を選んだ時には日本サッカー協会(JFA)の技術委員会副委員長で、カタール大会後にナショナルチームダイレクターに就いた山本昌邦(65)が教えてくれた。

「W杯ほぼ100年の歴史の中で、外国人監督で優勝した国はひとつもないのです。つまり、日本が優勝を目指すなら、日本人監督を育てる以外に道はありません。自国の選手の思いや潜在能力を最も引き出せるのは自国の監督だと、W杯の歴史が証明しているのですから」

 森保ジャパンがW杯出場を逃せば、日本人監督路線が白紙に戻る恐れがあった。

「アジア最終予選の初戦と第3戦に負けて森保監督への批判が出始めていたころ、監督と話す機会があったのです」

 と聞かせてくれたのは、Jリーグの初代チェアマンで、現在、JFAの相談役を務める川淵三郎(86)だ。

「どれほど落ち込んでいるかと思ったら、まったく平然としていた。『ここで負けたら日本人監督ではダメだと、また外国人が起用されてしまう。私には日本代表と日本人監督の未来を担う責任がある。必ずやり遂げます』って。ずいぶん腹がすわっているなあと驚きました。頼もしかった。だからそれほど心配しなかった」

 振り返ってみれば、アジア最終予選序盤の苦境は、チームの結束を固める重要なプロセスとなった。思えば、本大会のドイツ戦、スペイン戦の前半はいずれも圧倒的にボールを支配され、耐えに耐えた。しかも先制点を奪われた。劣勢からの挽回だった。

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