ミャンマー サイクロン上陸から1カ月 国軍が救援ボランティアを禁止、物資輸送費徴収に非難殺到

国際

  • ブックマーク

被災民に「輸送費」を徴収…

 軍事政権のこうした振る舞いは災害時の援助すら拒ませ、国民は歯を食いしばって生き延びなくてはならない。今回もその状況が繰り返されている。

「いや、以前よりひどい」

 というのは、ラカイン州の州都、シットウェ近郊に住むRさん(64)だ。救援を担う国軍は、物資を被災民に渡すとき、ヤンゴンからの輸送費を徴収しているのだという。

「物資といっても、米と、家の修繕用のトタンだけ。米は麻袋ひとつ、約5キロほどで輸送費500チャット(約335円)、トタンは1枚5,000チャット(約3,350円)を払わなくてはならないんです。以前はここまでひどくはなかった。被災した人は家もなくテント暮らし。5,000チャットなんて金があるわけがない」

 5,000チャットは、ラカイン州では1日の給料に相当する額。しかしライフラインが断たれたいま、仕事はない。救援物資だけが頼りなのだが……。

 国軍に対抗するアラカン軍が支配するエリアでは、救援物資の配給はアラカン軍やNGO、ボランティアが担っているが、もちろん輸送費など徴収していない。迫害されているイスラム教徒のロヒンギャの村にも配られている。

 今回の国軍が発したNGOやボランティアの活動禁止通達は、この援助を断ち切ることが目的といわれる。

“蚊が困っている人の陰部を刺す”

 6月1日から3日の予定で、中国の仲介によって、国軍とアラカン軍、ミャンマー民族民主同盟軍、クアン民族解放軍の間での会議の場が設けられた。しかし翌日の2日に早々に決裂。その直後から、ミャンマー北部では国軍と少数民族の軍隊との戦闘が再燃し、いままで以上の激しさだという。 今回のラカイン州での国軍の通達はこの動きと無縁ではないと現地の人たちはいう。

 国軍に対し、アラカン軍は、「蚊が困っている人の陰部を刺す」というラカイン州の諺を引用して抗議している。

 6月1日からミャンマーでは新学期がはじまった。国軍は子供たちに学校へ行くように指示を出したが、被災地では学校の屋根が飛んだり倒壊したりといった状態だ。それでも国軍は登校を強要する。

 被災民は皆で食糧をもち寄り、水害をまぬかれた米を分け合ってしのいでいる。サイクロンがもたらした天災はいま、人災にすり替わりつつある。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。近著に『僕はこんなふうに旅をしてきた』(朝日文庫)。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。