「新庄剛志」は逆を突いた!“超極端な守備シフト”を見事に破った名選手

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シフト破りの“珍三塁打”

 普通なら平凡な右飛なのだが、柳田が100メートル11秒台の俊足を飛ばしても追いつけない。打球は必死に差し出すグラブの30センチ先にポトリと落ちると、フェンス際まで転がっていった。この間に田淵は一挙三塁へ。スタンドのどよめきは、「こんなことあってたまるか」という笑い声に変わった。この“右前三塁打”のあと、遠井吾郎に決勝打を許し、巨人は奇策で墓穴を掘る結果に……。

 さらに翌13日も、巨人は前日の失敗に懲りることなく、やや緩めの田淵シフトを敷いた。1回2死一塁、田淵はフルカウントから玉井信博の外角直球を逆らわずピッチャー返し。打球が無人のセンターに抜ける間に、田淵は前日同様三塁を陥れ、さらに遠井のタイムリーで2点を先制した。

 せっかく左寄りに守っているのに、外角で攻めたら、当然打球は右に飛びやすくなる。「右に流し打てば本塁打を防げる」という目的からだとしたら、勝敗度外視と言われても仕方がないだろう。

 一方、2日連続でシフト破りの“珍三塁打”を記録した田淵は「本塁打が出なくても、勝てればいいんだ」と余裕しゃくしゃく。同年は王に10本差の43本塁打で初タイトルを獲得した。

センターの定位置が無人に

 それから39年後の2014年。巨人は、今度は内野5人シフトで注目を集める。7月11日の阪神戦、6回に2点を勝ち越された巨人は、なおも1死二、三塁のピンチで、原辰徳監督が動いた。

 次打者・今成亮太に対し、青木高広をワンポイントに送った直後、レフト・亀井善行をマウンドに呼び、一、二塁間を守るよう指示した。だが、今成の代打・西岡剛が起用されると、亀井はレフトの定位置に戻った。

 ところが、西岡のカウントが2-2になると、今度は亀井に三遊間を守らせ、思わずビックリの内野5人シフトを敷いた。外野はセンター・松本哲也が左中間、ライト・長野久義が右中間に移動し、センターの定位置が無人になった。

「見てのとおり、勝負にいった」と原監督は、犠飛も許されない勝敗の大きな分岐点で、西岡を内野ゴロに打ち取ることに全力を注いだ。西岡は2ストライク後に打球を巻き込む傾向が強いというデータに基づく変則シフト。作戦がピタリとハマれば、西岡は三遊間を守る亀井の前に“レフトゴロ”を転がすはずだった。

 ところが、「外野手が3人いるつもりでバットを振った」という西岡は、内角低めで三遊間方向へのゴロに打ち取ろうとした青木の6球目がやや甘く入るところを狙いすましたように、誰もいないセンターに弾き返した。決定的な2点を追加された巨人は5対12と大敗。奇策失敗の代償は、あまりにも大きかった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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