「偽装心中なら殺人罪も視野に」 猿之助事件の捜査の行方、刑法の専門家が語る

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嘱託殺人、承諾殺人になる可能性も

 ただし、ここで重要になるのが、亡くなったお二人の死因です。

 猿之助さんは、父親の段四郎さん(76)と母親の延子さん(75)の死に際してビニール袋を使用したと供述していますよね。

 つまり、向精神薬中毒であったと同時に、実質的には窒息に近い状況だった可能性もある。最終的に窒息により両親が死亡したなら、自殺ほう助や自殺教唆では済まず、嘱託殺人か承諾殺人になる可能性もあるのです。

 しかも、父親は末期がんで要介護状態。思考能力も低下していたといわれており、意思疎通が困難であった可能性も高い。そのような状態の人が、果たして自殺の意思を明確に表明できるのか。その事実認定の仕方によっては、猿之助さんが問われる罪と量刑は大きく変わるので、警視庁も慎重に捜査を進めているのでしょう。

今後の争点は

 仮に段四郎さんが自殺の意思を表明できない状態にあったと認定されれば、前日に家族会議を行い三人で結論を出し一家心中に及んだという猿之助さんの供述内容の信用度は、格段に低くなってくるわけです。母親はともかく、段四郎さんに対する罪状は自殺ほう助では済まなくなる。

 極端な話、両親を手にかけておきながら、猿之助さんご自身ははなから死ぬつもりがなかったのならば、「偽装心中」として殺人罪に問われることにもなりかねない。自殺の意思を表明していない2名、しかも両親を猿之助さんが殺害したということになりますと、場合によっては死刑の可能性すら出てくると言わざるを得ないのです。

 いずれにしても、直接の死因と、両親に自殺の意思があったのかどうかという点が、今後の争点になるのは間違いありません。

園田 寿 甲南大学名誉教授(刑法)

週刊新潮 2023年6月22日号掲載

特集「『猿之助』破滅への道 『香川照之』の行く末は…『梨園の心中』私はこう見る」より

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