来年の松本幸四郎「鬼平犯科帳」に新たな撮影技術が導入 LEDパネル165枚で期待される効果は

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 2024年に劇場公開、テレビ放送、配信と4作品の製作が予定されている「鬼平犯科帳」。新たな鬼平は、二代目中村吉右衛門の甥にあたる十代目松本幸四郎が務める。現在、撮影真っ只中の京都・太秦の現場に乗り込んだ時代劇研究家のペリー荻野氏が、“新たな、鬼平”に導入された最新技術をリポートする。

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 今年、生誕100年を迎えた時代小説家・池波正太郎。鬼平こと長谷川平蔵が率いる火付盗賊改方と盗賊たちとの攻防を描く「鬼平犯科帳」は、累計発行部数3000万部という池波の代表作だ。1969年、原作のモデルとなった八代目松本幸四郎が自ら主演してテレビドラマ化されたのをはじめ、丹波哲郎、萬屋錦之介、二代目中村吉右衛門と名優たちによって映像化されてきた。

 現在、十代目松本幸四郎が五代目・長谷川平蔵を演じる「鬼平犯科帳」の劇場版とSPドラマが撮影中だ。

 6月7日に行われた「『鬼平犯科帳』レギュラー出演者発表会見」では、シリーズに欠かせない平蔵の愛妻・久栄に仙道敦子、火付盗賊改方の佐嶋忠介に本宮泰風、木村忠吾に浅利陽介、酒井祐助に山田純大、同心・沢田小平次に久保田悠来、小野十蔵に柄本時生、鬼平を慕って命がけで探索に加わる密偵の彦十に火野正平、おまさに中村ゆりなど主要キャストが発表された。中でも八代目市川染五郎が“本所の銕(ほんじょのてつ)”と呼ばれる無頼生活を続けた若き日の平蔵を演じるというのは大きな見どころになる。

 その撮影現場は、1989年から2016年まで最も長く鬼平を演じた中村吉右衛門版と同じく京都・太秦の松竹撮影所だ。

 時代劇には煙ひとつでドロンと姿を消す忍者など荒唐無稽なシーンも多々あるが、「鬼平犯科帳」シリーズは原作の中に漂う江戸の情緒や味、景色を丁寧に描写することで知られてきた。平蔵はじめ、登場人物が食する料理も、池波が生前、信頼した料理人が監修。東京から食材を取り寄せて、当時の膳を再現する。シリーズ開始前には、平蔵や密偵たちがひいきにする軍鶏鍋屋「五鉄」の味を知るため、スタッフが試食。当時のスタッフは関西出身者が多かったため、江戸の味との違いを実感したという。こうしたこだわりは新しい「鬼平」にも活かされていくが、今作で注目したいのは、この撮影所では初となる「LEDウォール」技術が導入されたことだ。

京都の実景を取り入れた背景映像

 基本はLEDディスプレイを壁のように設置。LEDウォールと言われる所以だ。そこにあらかじめ撮影した自然の風景やCG映像を映し出しながら、撮影をする。これまでスタジオ内の撮影では、空や山々など広い背景、遠景は、伝統的な書割、最近は合成用の背景としてグリーンバックやブルーバックによる合成が使われてきた。通常の合成シーン撮影の場合、俳優たちはそこにはない景色を眺めながらの演技になる。しかし、LEDウォールでは、春夏秋冬、物語に合った季節の風物が見える臨場感のある状態で、人物と景色が一体となって撮影ができる。しかも動画でだ。事前の準備次第では、天候や時間に左右されず、映像をループさせることで、朝昼晩、春夏秋冬、背景の映像を変更することもできるし、その映像自身の見え方を調整することも可能だ。

 LEDウォールは長谷川平蔵の役宅のシーンで使われていた。

 役宅の座敷に座った火付盗賊改方の面々が、平蔵とともに事件について考察する場面だ。役宅の庭の向こうにはLEDの横長の壁があり、近隣の建物の屋根や青空、木々が映っている。よく見ると木の葉はそよぐ風に揺れている。筆者は幾度も吉右衛門版「鬼平」の撮影現場を取材してきたが、屋根瓦、柱、畳、庭の土や庭木などセットの作りは同じでも、こうした光を放つ映像パネルの背景は見たことがない。

 その技術の中心となっているのが、VFXシニアスーパーバイザーの尾上克郎氏とVFXプロデューサーの結城崇史氏。尾上氏は映画「シン・ゴジラ」、結城氏はNHKのドラマ「精霊の守り人」や大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など、話題作を手がけてきた日本を代表する技術者だ。

「通常、LEDに映す映像は、CGで作ることが多いのですが、今回は監督からの『こんなイメージで』という案をもとに、京都の実景をいくつか撮影することにしました。京都は時代劇にうってつけの素晴らしいロケ地が多く、その景色を朝、昼、夕景、夜景とストックもできる。リーズナブルですし、これは大きな利点です。僕は新技術を成功させるコツはハードルの低いところから始めることだと思っています。まず、スタッフのみなが理解できて使いやすいと感じるところから、少しずつスキルを上げながら、新しい技術をうまく使いこなせるようにする。LEDウォールは撮影、照明、美術スタッフなど、理解と調整が必要な部署は多岐にわたりますが、ここには受け継がれた熟練の技があり、自分たちが作りたい画のイメージがあって、いい作品を作るためのスタッフ全員のプロ意識が高い。アットホームな雰囲気で新しい技術を受け入れ、わずか数日でしっかり対応してくれました」(尾上氏)

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