【マイナカード】普及を急ぎ過ぎたツケ 専門家は「今後も問題は繰り返し、その度にシステムの改修が必要に。最悪のスパイラルに入っている」

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問題は人員不足?

 前述の氏名のカタカナ問題については、氏名の読み仮名が「公証」される改正戸籍法が今国会で成立し、2025年6月までに登録されるという。だが、これもうまく進むのかどうか。もともと戸籍に読み仮名はないため読み方は自由で、実際、奇抜な読み方をするキラキラネームもある。

 つまり、1億人全員のカタカナ戸籍を新たに作るようなものだ。住民登録などで使われている氏名の読み仮名は、事務処理の利便性を高めるためという目的で強制的に戸籍の読みにすることは難しそうだ。ここでも本人の「名寄せ」問題が生じるのではないだろうか。

 そうした数々の問題を解決しないまま、マイナンバーカードの普及を急いだのはなぜか。デジタル庁に民間から出向しているIT専門家は言う。

「利便性が乏しいためマイナンバーカードを申請する動きが広がらず、マイナポイントを大盤振る舞いして交付率はやっと67%になりました。本来は氏名の読み仮名や英文表記などのデータの扱い方を決めた上で、マイナンバーのシステム自体を作り直すべきでした」

 それをやらなかったのには理由があると、別の専門家が解説する。

「結局、屋上屋を重ねて、世界で最も複雑なシステムが出来上がりました。今後も問題は繰り返し出てくるでしょうが、その度にシステム改修が必要になり、システム開発を担う大手ベンダーは儲かります。出来の悪いシステムほどベンダーは儲かるという最悪のスパイラルに入っています」

 河野氏は「人口550万人のシンガポールのデジタル庁は職員が3500人いる」と現在900人の日本のデジタル庁の人手不足を指摘する。縦割り行政の打破を名目に生まれたデジタル庁も、結局は新たな利権組織として肥大化していくのだろうか。

磯山友幸(いそやま・ともゆき)
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。87年、日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリストとしての活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』(PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』 (以上、日経BP社)などがある。

デイリー新潮編集部

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