自覚症状なしで人工透析に… 国内に1300万人の患者がいる「慢性腎臓病」の恐ろしさ

ドクター新潮 ライフ

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体に毒素が

 誤解を恐れずに言うと、日本の人工透析技術は世界一。海外では透析開始後5年ほどで亡くなってしまうケースが多いのに対し、日本の透析患者は長生きです。日本透析医学会の調べでは、年々、透析治療を開始する年齢は高齢化しているのに、10年以上透析を続けている患者が全体の約28%、20年以上続けている患者も約9%います。

 でも、やっぱり透析には難点がある。一度導入すれば、4時間の透析を週3回、死ぬまで続ける必要がありますし、合併症も多い。

 というのも、腎臓が担っているのは「ろ過」と「再吸収」だけではありません。例えばエリスロポエチンという造血作用のあるホルモンを生成するのも大きな仕事で、これが骨髄の造血細胞に働きかけて赤血球が作られます。ところが腎機能が低下するとエリスロポエチンが生成されず、私たちの体は貧血を起こしてしまう。これにより心不全のリスクが大きく上昇します。

 また、腎臓は単位重量当たりのエネルギー消費量が心臓とほとんど変わらず、酸素消費量もとても多い。ところが、貧血になると酸素が行き渡らず腎臓がへばってしまうという悪循環も起こります。本来、腎臓は心臓から送られた血液の20~25%が流れ込んでくる、最も血流量の多い臓器。腎機能が低下して大量の血液を受け止めることができなくなれば、それが他の血管に流れ込んで高血圧を引き起こすのです。

 さらに、腎機能が低下するとおしっこが出にくくなり、体に毒素がたまりやすくなる。これにより肺炎を起こして亡くなってしまう方も非常に多いんです。また、これらの毒素は血管を硬化させ、脳卒中や心筋梗塞も引き起こします。

骨軟化症も

 問題は他にも。腎臓は骨を作るビタミンDの活性化にも大きく関わっているため、慢性腎臓病の方は「くる病」という骨軟化症を起こして骨折することも多い。

 人工透析が補えるのはあくまでも「ろ過」機能のほんの一部。それ以外の機能は失われたままですから、このように合併症を引き起こすリスクが増大するのです。

 アメリカで慢性腎臓病の概念が提唱されたばかりの頃、日本でも尿蛋白の値と末期腎不全の発症との相関を調べたことがありました。すると、尿蛋白が「3+」では、15年後に15%程度の患者が末期腎不全を発症していた。つまり40歳くらいで尿蛋白が出たとして、15年後の55歳では6人に1人が透析になっていたのです。

 慢性腎臓病は脳卒中や心血管疾患のリスクが大きいため、末期腎不全を発症する前にこれらの疾患で亡くなる方も多い。従って、実際に健康被害が出た人は15%どころではないでしょう。

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