自覚症状なしで人工透析に… 国内に1300万人の患者がいる「慢性腎臓病」の恐ろしさ

ドクター新潮 ライフ

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ケロイドのように硬化

 まず、血液をろ過する糸球体の毛細血管は小さな穴が無数にあいたフィルターのような構造をしています。でも、糸球体が炎症を起こしたりすると、このフィルターが破れてしまい、そこから本来は通過しないはずの大きさの赤血球やタンパク質が漏れ出てしまう。つまり、尿潜血や尿蛋白は、糸球体の一部に破損が生じているサインなのです。

 これは、破れたコーヒーフィルターをイメージしてもらえれば分かりやすい。カップに入れたコーヒーの中にザラザラとした粉が混じっていれば、「あれ、フィルターが破れていたかな」と確認するでしょう。このときのコーヒーのザラザラが、尿に漏れ出た赤血球やタンパク質というわけです。

 一方、破れてしまった糸球体のフィルターは、時間がたつとケロイドのように硬化して穴が塞がってしまう。そうなると、この糸球体では、ろ過自体ができなくなってしまいます。従って、一つの糸球体から赤血球やタンパク質が漏れ続けるということはありません。

 従って、長期間にわたって尿蛋白や尿潜血が確認されるのであれば、次々と連続して糸球体が破損していっている可能性が高いことになる。そのため、「尿潜血」や「尿蛋白」、「尿アルブミン」の陽性が3カ月以上続く場合は、かなりの高確率で慢性腎臓病に罹患していると考えられます。

どんな名医でも…

 ただし先ほどもお話しした通り、腎臓は大変な働き者なのです。仮に慢性腎臓病に罹患して糸球体のフィルターが次々と破壊されていっても、残った糸球体が腎機能をカバーするため、ろ過量自体はなかなか減少しません。例えば糸球体が40%破壊されて、60%しか機能していなかったとしても、1分当たりのろ過量は100ミリリットルをキープする。

 でも、冒頭の会社の例で考えれば、10人分の仕事を6人で行うわけですから、一人一人は明らかなオーバーワークです。人間の「過労」と同じく、糸球体も「過剰ろ過」を起こし、次々と倒れていってしまいます。

 健康診断の結果表で、今度は血液検査の欄を見てみてください。そこに「eGFR」という項目があると思います。これは1分当たりの血液のろ過量を表す数値です。

 この数値が90以上であれば、ろ過量は正常といえます。60~89だと軽度の腎機能低下。問題は60未満の場合です。ろ過量が1分当たり60ミリリットルを切ると、すでに腎臓内の糸球体は30~40%にまで減少している可能性が高い。そのため、eGFRが60を下回る場合も慢性腎臓病と診断されます。

 ここまでの話を総合すると、慢性腎臓病と診断されるのは、3カ月以上にわたって尿蛋白などの尿異常が見られる場合か、eGFRが60を下回っている場合。これらは年に1度の健康診断で十分に見つけられます。

 ところが、この段階に至っても自覚症状は全くなく、多くの人が早期発見のチャンスを逃してしまう。そして、10年20年と長い期間が過ぎ、ようやく倦怠感や浮腫み、尿が出にくいなどの症状が現れる。この頃にはろ過量は1分当たり20ミリリットル程度にまで落ち込んでいることが多く、どんな名医でも治すことはできません。比較的短い期間で透析治療になってしまうでしょう。

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