東京を人材も情報も集まる世界の「アニメ首都」にせよ――数土直志(アニメジャーナリスト)【佐藤優の頂上対決】

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日本アニメは衰退する?

佐藤 一時期、中国が日本のスタジオを買収したり、人材を引き抜いたりしているという話がありましたね。

数土 はい。5年くらい前には中国脅威論があったのですが、中国の日本進出は成功しませんでした。

佐藤 どうしてですか。

数土 お金を積んだだけでは、スタッフが集まらなかったのです。特にトップアニメーターたちは仕事を選びます。作品の最後にはエンドロールが流れますが、どんな作品に名前が載っているかが重要で、中国作品はそもそもクレジットを重視しません。だから優秀なアニメーターほど、中国の仕事をやりたがらなかった。

佐藤 日本のアニメーターの文化や心情に対する理解が不十分だったわけですね。

数土 日本では制作スタッフへのリスペクトがありますから。

佐藤 ただ、一部のアニメーターが支えているとなると、日本アニメはかなり脆弱な基盤の上に成り立っていることになりますね。

数土 はい。私はこの先10年20年という期間で見たら、日本アニメが世界で後退するのは、必然だと思っています。アニメが儲かることがわかったので各国から参入してくる一方、日本の人口は減少し、それに伴いアニメ制作者となる若いクリエーティブ人材も減ります。それが日本アニメの競争力を弱めていく。

佐藤 何かいい処方箋はないのですか。

数土 私がよく言うのは、グローバル化です。それも海外に出ていくことではなくて、内に取り込むグローバル化です。つまり海外の優れた才能を日本に呼び込むしかない。

佐藤 作り手を招くのですね。

数土 東京を世界のアニメの首都にするのです。金融の中心がチューリッヒだったり、ファッションの首都がパリだったりするように、世界から東京にアニメの情報や人が集まるようにする。たぶんそれが日本のアニメが生き残る唯一の道ではないかと思います。

佐藤 そういう構想には、経済産業省の人たちがすぐに飛びついてくると思いますよ。

数土 ただ、経産省のクールジャパンって成功したんでしょうか。

佐藤 そのファンドは巨額の赤字になっていると報じられていますね。

数土 日本のアニメの実情がわかっていたとは思えないですし、そもそも自分のことを「クール」と言う人は「クール」じゃない。

佐藤 確かに「俺は粋な奴だろう」と言うのは野暮に決まっています。

数土 毎年10月に経産省が共催する東京国際映画祭が開催されますが、そこに「ジャパニーズ・アニメーション部門」があるんですね。国際映画祭なのに、そこだけ日本のアニメを並べて、みんなに見てもらおうというコーナーなんです。それだと、日本人はハッピーだけども、海外の人は全然ハッピーじゃない。自分たちは売り込まれるだけですから。

佐藤 自国のものを中心に売り込むという点では、モスクワ映画祭に近いかもしれない。

数土 そうなのですか。モスクワ映画祭は、けっこうステータスが高い映画祭じゃないですか。私はいつまでたっても東京国際映画祭が一流になれないのは、日本中心主義で、国際的な映画祭であることを表明できていないからだと思っているんですよ。

佐藤 なるほど、カンヌ映画祭もベルリン映画祭も広く外に開かれていますからね。

数土 だから内側へのグローバル化なんです。いま外国人技能実習制度の改正が議論されていますが、政府にやってほしいのは、アニメーターやアニメの演出家を高度人材にして、日本に入りやすくすることです。最近サウジアラビアのMBCというメディアグループが、日本のアニメに投資するファンドを作りました。また中国も、日本進出に失敗したものの、投資は活発です。だからお金は入ってくるのです。問題はアニメを作る人材です。それを世界から取り込む仕組みを作ることこそが、この業界に最も必要なことだと思いますね。

数土直志(すどただし) アニメジャーナリスト
1967年メキシコ生まれ。横浜で育ち大学卒業後に証券会社に13年勤務。2002年にアニメの最新情報を届けるウェブサイト「アニメ! アニメ!」、09年には同ビジネス情報サイト「アニメ! アニメ! ビズ」を開設し、16年にジャーナリストとして独立。23年には第1回新潟国際アニメ映画祭のプログラム・ディレクターを務めた。

週刊新潮 2023年6月8日号掲載

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