東京を人材も情報も集まる世界の「アニメ首都」にせよ――数土直志(アニメジャーナリスト)【佐藤優の頂上対決】

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慢性的な人手不足

佐藤 日本のアニメは、年間にどのくらい作られているのですか。

数土 テレビだと300本くらい、映画なら70本くらいですね。

佐藤 それを何社くらいで作っているのでしょう。

数土 一般社団法人日本動画協会の2020年の調査では、811社ありました。100社ほどの元請けがあり、そこから専門分野を持つ2次請け、3次請けに発注していきます。一つのスタジオですべてができるところは東映アニメーションくらいです。

佐藤 やはり東京に多いのですか。

数土 はい。それも練馬区と杉並区に集中しています。これには理由があって、昔はデータでやりとりできませんでしたから、原画やフィルムを手に持って運んでいたんです。練馬には東映アニメーションや手塚治虫の作った虫プロダクションがあり、杉並にはガンダムを作ったサンライズや東京ムービーという大きなスタジオがあったので、近くに集まってきたわけです。もっともデータでやりとりできる現在は、地方にもかなりスタジオができています。

佐藤 いまアニメ制作者たちは、総勢で何人くらいいますか。

数土 数万人規模だと思います。でも需要が増え過ぎてしまったので、慢性的な人手不足です。業界の方々はいまのままで作り続けるのはかなり難しいと言っています。

佐藤 その問題点はどこにあるのでしょう。

数土 やはり人材育成に時間がかかることですね。また、ここ数年で変わってきましたが、職場環境が整備されておらず、辞める人も多かった。エンターテインメント業界やメディア業界はどこでもそうですが、希望者はいくらでもいるので、使い捨てにしても構わないという風潮があったんですね。そのツケが回ってきた。

佐藤 一人前になるにはどのくらいかかるのですか。

数土 個人差がありますが、数年はかかるでしょうね。

佐藤 通訳は早い人で3~5年、普通は10年かかりますから、似ていますね。アニメ制作者は、アニメの学校から入ってくるのですか。

数土 専門学校や美術系大学などを卒業してスタジオに入ることが多いです。ただ、社員でなく出来高制の業務委託契約も多いんですよ。いまは社員雇用するところが増えましたが、エントリークラスの人たちがちゃんと稼げないという構造がありました。

佐藤 それは問題ですね。その後のキャリアパスはどうなるのですか。

数土 アニメーターには「原画マン」と「動画マン」という仕事があります。原画マンは、動き始めや重要な中間ポイント、動き終わりを描き、その原画と原画をつなげるのが動画マンです。最初は動画マンとなることが多いのですが、絵がうまいだけではダメで、絵をきれいに動かすための能力が必要になります。

佐藤 そこは才能の部分が大きい。

数土 はい。そこで技術を積み上げて、原画マンや、キャラが滑らかに動いているか、彩色の不備がないかなどを調べる「動検」の仕事などに振り分けられていきます。そこから作画監督や、あるいは演出に進んでいく人もいます。

佐藤 収入はどんな感じでしょうか。通訳の世界を見て思うのですが、年収500万~600万円が保証できる裾野がどこまであるかで、その業界が存続できるかどうかが決まる気がしているんです。

数土 アニメーターの収入は二極化していて、社員になれば普通に月に二十数万円くらいはもらえます。それが業務委託になると、数万円から始まる世界になる。そして生活できない人は「やりがい搾取」され、辞めていくことになります。ただ才能に依存する部分もありますから、うまく描けないなら辞めるのも仕方がない、という雰囲気はあります。

佐藤 そこは作家や通訳の世界とも通じるところです。

数土 一方、トップクラスのアニメーターは、恐らく数千万プレーヤーです。そういう人はフリーに多く、例えば宮崎駿作品にも新海誠作品にも細田守作品にも、同じ人が「原画マン」として出てきます。その数少ないスーパーアニメーターたちが日本のアニメの動きを作り出す中核です。

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