東京を人材も情報も集まる世界の「アニメ首都」にせよ――数土直志(アニメジャーナリスト)【佐藤優の頂上対決】

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日本アニメの勝因

佐藤 だいたい、いつくらいから人気が爆発した感じですか。

数土 日本でネットフリックスやアマゾンの配信サービスが始まったのは2015年からですが、アメリカでは2000年代の後半です。そして2012年から、アメリカと中国で海賊版が駆逐されるようになりました。そこが起点です。アニメの市場規模調査を見ても、2012年あたりから右肩上がりに市場規模が拡大しています。

佐藤 やはり地域によって好まれるジャンルは違いますか。

数土 欧米だとアクションやSFファンタジー分野がウケますね。日本で人気の美少女が出てくるものや「スライス・オブ・ライフ」と呼ばれる、ありふれた日常を描くものだと、アジアでは人気が出ますが、欧米では広がらない。

佐藤 欧米にも美少女系が好きな人はいると思いますが、児童ポルノみたいな捉えられ方がありますからね。

数土 そういう偏見はあります。ただ、アカデミー賞に何度もノミネートされ、受賞もしたスタジオジブリ作品は広く受け入れられています。ですから美少女が出てきても、アメリカでは独自の線引きをしているのでしょうね。

佐藤 マーケット次第で変わってくるのかもしれません。

数土 確かに日本アニメが広がったために、基準が変わってきたものはあります。昔は、目の大きな女の子は日本アニメの特徴とされ、結構揶揄されていたんです。それがいまは欧米の作品もアジアの作品も、キャラクターの目が大きくなりつつある(笑)。

佐藤 それは面白いですね。

数土 それだけ日本のアニメに影響力があるということです。

佐藤 どうして日本のアニメはこんなに成功できたのでしょう。

数土 もちろん宮崎駿監督や新海誠監督などの優れた作り手がいたからですが、私はアニメ業界が小さいことも一因だと思うのです。非常に小回りが利くし、アニメスタジオの経営者たちは決断が早い。よく言われるのは「これだけ巨大ビジネスになっても、この業界のビジネスを本当に動かしている人は100人いないよね」ということなんですね。

佐藤 100人以下ですか。

数土 でもその人たちがネットワークを作って、成功したものがあるとそれをマネし、あるいはその方向へと動き、商業的に成り立つものを作り出していった。それがよかったのではないかと思います。

佐藤 日本のアニメは世界化しましたが、実写はなかなかうまくいっていませんね。一方、韓国の実写は韓流ドラマとして世界中で見られていますが、アニメは聞かない。これはどうしてなのでしょう。

数土 アニメの側から見ると、日本の実写は、あまり産業化されていない気がします。作り方もそうですし、アニメは作品とともに、イベントもあれば商品も出しますし、さまざまな形で収益を上げる仕組みがあります。

佐藤 なるほど、俳優に依存するドラマと違って、アニメには独自の世界がはっきり示されますから、商品などに展開しやすい。

数土 韓国については、アニメが弱いというより、日本が強すぎるので、同じ土俵で勝負しないんじゃないでしょうか。一方、韓流ドラマの世界戦略はすごいですよね。最初から輸出志向で作っている。

佐藤 日本は1億2400万人の人口がありますから、それだけで市場として成立しますが、韓国は5200万人ほどですから、国内だけでは成り立たない。

数土 だから世界に出るしかないのはよくわかります。

佐藤 韓国の俳優は、だいたい韓国語以外に、英語、中国語、日本語の中から二つは喋れますね。しかも多くが大学の演劇科を出ている。日本は中学高校からプロダクションに入ってOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で覚えていきますから、基礎的な部分からして違います。

数土 日本のアニメも、いまはいきなり世界を目指す作り方をした作品が数多く出てきています。

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