「火事場泥棒はやめろ」と韓国を叱る米国 「半導体で米韓離間に成功」とほくそ笑む中国

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中国人の前では「自由」を言わない

――THAAD配備は韓国のためだったのではないのですか。

鈴置:そうなのですが、米国目がけて中国が発射するICBMを早期に発見するのが目的、との見方もあります。ナム・ジョンホ氏ら韓国人が米国に愛想を尽かしたのは、いじめられるロッテを米政府が見殺しにしたからと思われます。

――とはいえ、THAADは韓国の安保に大きく寄与している。

鈴置:そんな客観的事実は、米国に反感を募らせる韓国人の目には入りません。そもそも韓国人は「中国が支配する世界」にさほどの抵抗感はないのです(『韓国民主政治の自壊』第1章第1節「『西洋の没落に小躍り』」参照)。

 韓国人は「自由」「民主主義」を謳いますが、それは米国や日本に助けて貰う時だけ。中国人の前では決して言いません。犠牲を払っても「自由」と「民主主義」の後退を食い止めよう――などとは露にも思わないのです。

 米国側に戻ったと自称する尹錫悦政権も同じです。大統領候補時代の尹錫悦氏はロシアのウクライナ侵攻の直前、「[対ロ]制裁により、我が国の企業が被害を受けないよう徹底的に備えよ」と語っています(『韓国民主政治の自壊』第1章第1節「『西洋の没落に小躍り』」参照)。

こっそり穴埋めしても分からない

――中国はつけ込むチャンスですね。

鈴置:もうつけ込んでいます。中国共産党の対外宣伝紙、Global Timesの「GT Voice: US Labeling of China to force SK economy to a dead-end」(5月29日)が典型です。

 見出し「[中国の威圧という]米国の決め付けが韓国経済を窮地に陥れる」からして、明らかに米韓の離間を狙う記事です。

 本文を読んで「そうだ!米国の言いなりになれば、損するばかりだ」と考える韓国人も出てくるでしょう。以下の部分などはなかなか説得的です。

・市場の需要は変化するのが現実である以上、マイクロンが失ったシェアを具体的に特定するのは困難だ。したがって「マイクロンが中国市場で失った分を韓国の半導体メーカーに穴埋めさせるな」との韓国政府に対する米国の要求は事実上、韓国の半導体メーカーが中国事業をさらに拡大する機会を抑制するのが狙いだ。
・米国の影響力はすでに韓国の中国との協力における主要な不確実性の原因となっている。韓国がこうした干渉を無視できなければ、中韓両国は深刻な経済的結果に直面することになるだろう。

「米国の干渉を撥ね退けよ。さもないと痛い目に遭うぞ」と脅したのです。韓国人は「第2のロッテ事件が起こる」と震えあがったでしょう。

 ただ、Global Timesは韓国に「堂々と寝返れ」とは言っていない。「マイクロンが失ったシェアを具体的に特定するのは困難だ」とのくだりが意味深長です。「米国には穴埋めしませんと言っておいて、こっそり穴埋めする手もあるぞ」とのささやきに聞こえます。

 Global Timesを読んでいると中国の意図は、半導体戦争で勝つために米韓離間を画策するというよりも、常々狙っている米韓離間の有効な材料として半導体戦争を利用しているとも思えます。

 いずれにせよ、米中半導体戦争の激化により、米韓関係が際どい状況に陥りました。韓国が米国側に立って「マイクロンの穴埋め」を拒否するのか、あるいは中国の指示通りこっそりと応じるのか――。日本は展開を見極める必要があります。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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