「火事場泥棒はやめろ」と韓国を叱る米国 「半導体で米韓離間に成功」とほくそ笑む中国
米国なしで何もできない韓国
――まずは「マイクロンの穴埋めをするな」と通告したのですね。
鈴置:もっと露骨な構想も表明しました。中国との半導体の取引を一切やめよ、というのです。
・米韓は「同盟間の合意」が必要だ。半導体に関しては中国にいかなる輸出もせず、いかなる中国製の半導体も輸入しない、というやり方だ。
・中国企業はメモリーやディスプレー産業などへの巨額の補助金や知的財産の盗用、技術移転の強要など不法な手段で現在の地位にのし上がった。彼らに対抗するにはこれしかない。
この発言に米国の本音が覗いて見えます。
・中国は半導体を通じた世界支配を目指している。西側は中国製の半導体に頼らぬ体制を作るべきである。同時に中国の半導体産業が発展しないよう努めるべきである。
・メモリーでは中国最大手、CXMTが生産能力を引き上げてくるであろう。とりあえずはCXMTの成長を阻害する作戦が必要で、不買運動に乗り出そう。
・CXMTとの中国市場の争奪戦にこれから直面する韓国2社は、中国工場を放棄することになる可能性が高い。中国政府のバックアップを受けるCXMTに敗退するであろうからだ。
・だとしたら、韓国2社はいずれ中国のものとなる中国工場の生産能力を増強したり、先端半導体の製造装置を持ち込むべきではない。
米政府は韓国2社に対し、中国工場の製品を先端化するな、製造能力を引き上げるな、と圧迫しています(「今度は『半導体』で日本を騙す韓国 来日の尹錫悦が繰り出した必死の作戦」。思い付きではなく、こうした基本戦略の下の「行政指導」なのです。
――それにしても、強引な説得法ですね。
鈴置:米国人が本気で脅す時は、この程度では収まりません。以下に続きます。
・韓国は長期的な視点を持った方がいい。問題は、韓国は我々なしで何事もなし得ないことだ。韓国は力を持っていないのだ。ここは慎重に考えた方がいい。韓国は、少しは我々を信頼してもいいのではないか。
「韓国は力を持たない。米国なしでは何もできない」――。米韓同盟がなくなって泣くのはお前らだ、と言い放ったわけです。
広がる「強引な米国」への反感
――身も蓋もありませんね。
鈴置:韓国では「傲慢で強引な米国」に対する不満が高まっています。日本経済新聞の「『米国には譲ってばかり』 韓国、半導体ゼロ回答の波紋」(5月18日)はバイデン(Joe Biden)政権が進める半導体分野の対中投資への規制に韓国の政府も業界も困惑している、と報じました。
見出しの「米国には譲ってばかり」は韓国半導体メーカーの匿名の幹部の発言です。韓国人の対米フラストレーションが高まっていることが如実に分かります。
半導体戦争以前から、韓国には「米韓同盟によって我々は損ばかりしている」との意識が根強くありました。在韓米軍へのTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備により、敷地を提供したロッテ・グループは中国で手広く展開してきた流通事業を全て中国企業に売却する羽目に陥りました。
保守系紙、中央日報のコラムニスト、ナム・ジョンホ氏はウクライナ侵攻の際、ロシアへの制裁に加わるのに反対しました。その理由に挙げたのがTHAADでした。「【時視各角】ロシア制裁への異なる視点」(2022年3月2日、日本語版)でこう説明しています。
・韓国は強大国間の衝突で大きな被害が生じても補償を受けられない過ちを繰り返してきた。THAAD配備が代表的な事例であり、直接的な受恵者は在韓米軍だが、被害は韓国企業が受けた。
・それでも米国が限韓令の緩和を中国に要求したという話は聞かれなかった。2018年から始まった対中国半導体輸出規制で韓国企業に大きな被害があった時も同じだ。
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