スマホ利用者全員が負担している「月額1円」のヒミツ ろう者の通話サービス支援に
携帯電話の支払い明細に「電話リレーサービス料」なる項目があるのをご存じだろうか。一昨年7月に始まった、聴覚や発話に困難がある人とそうでない人を電話でつなぐもので、スマートフォンの利用者にはそれを支援する「1円」の負担が課せられている。
「携帯電話がどれだけ普及しても、ろう者にさほどメリットはなかった。それがスマホの登場で、劇的な変化がもたらされたのです」
とは、聴覚障害学が専門の医学博士で、事業を担う日本財団電話リレーサービスの大沼直紀理事長(81)だ。
「ろう者と健常者を手話・文字通訳を担うオペレーターがつなぐサービスです。ろう者はスマホのビデオ通話機能を使ってオペレーターに手話や文字で伝言し、オペレータは通話相手に音声で伝える仕組みです」
スマホを通じた言葉の“リレー”は24時間、365日体制で、110番や119番などの緊急通報も可能。健常者側はスマホに特別な設定を施す必要はなく、ガラケーでも利用可能だ。
「コロナ禍による緊急事態宣言下では飲食店が臨時休業しましたね。店側は予約客に電話で事情を知らせましたが、ろう者に口頭では伝えられません。やむを得ないことではありますが、実際に店に行って休業を知ったろう者もいたんです」
手話に〈もしもし〉がない理由
大沼理事長によれば、ろう者と健常者との情報格差は歴史的にも大きいという。
「最大の原因が1876年、グラハム・ベルが発明した電話機の登場。当時から、ろう者は文字での意思疎通はできても電話とは無縁の存在と見なされてきました。その名残で、いまも手話には〈もしもし〉を表現する“単語”がないんですよ」
現時点で登録者はおよそ1万2600人。日中は1日平均1100件、夜間は数件の通話と緊急通報を取り次いでいるそうだ。
ところで日本の携帯電話契約数はおよそ2億件だから、人口の倍近いユーザーが毎月1円を拠出しているワケだ。にもかかわらず、大沼理事長は「知名度がイマイチなのが悩み」と訴える。
「2年前に“『もしもし』の手話がない理由。”というキャッチコピーの新聞広告が賞を頂きました。その後も、聴覚障害者が登場するテレビドラマにCMを提供したり、難聴の両親を持つユーチューバーとのコラボをしたり。いろいろ努力しているつもりですが……」