“集合住宅で遊んでいたらバケツの水が…”「子どもの声は騒音ではない」お手本ドイツの意外な実情

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法律は社会にどのような変化をもたらしたか

 法律で「子どもの声は騒音ではない」と決まってから、どのような変化が起きたのでしょうか。まず、「子どもによる騒音」を理由に裁判を起こすことが難しくなりました。

 ただ訴訟に踏み切れないからといって、ドイツ人全員がいきなり「子どもの声」を歓迎するようになったわけではありません。

 ドイツのスーパーマーケットやデパートで、大きな声を出している子どもがいると、目を白黒させる人、明らかに一言言いたそうな不機嫌な表情をする人は昔も今もいます。ただし昔のように怒りにまかせて「子どもの声がうるさい!」と怒鳴る人は少なくなりました。これを法律の効果と言っていいのかどうかは分かりませんが、そこには明らかに「子どもの声はうるさいけど、法律は騒音ではないと言っているし、仕方ない」といった「諦め」が見られます。でもこの「諦め」というのもひとつの「効果」だと思うのです。

 ドイツはもともとあまり子どもに優しくない国であり、かつてドイツを訪れた外国人は決まって「ドイツ人はkinderfeindlich(和訳:「子どもに優しくない」)だ」と嘆いていたものです。ドイツにはトルコ系の人が多く住んでいますが、トルコとの違いが目立ちます。筆者の知り合いのドイツ人女性が何年か前に幼い子どもを連れてトルコ旅行をしたところ、バスの中で子どもがぐずりだしました。ところがバスの乗客みんなが子どもをあやしてくれて感動したといいます。

「ドイツでは子どもが長めにぐずると、眉間にしわを寄せて何か言いたげな表情の人が多いけど、トルコではみんな子どもに対して笑顔で優しかった」と語りました。

 残念ながらドイツに関しては、そもそも「スタート」が「子どもに優しくない社会」ですから、あからさまに子どもやその親を怒鳴りつける人が減ったというだけで大きな進歩だといえるでしょう。

「ドイツは子どもに優しくなりましたか?」という質問に対してドイツでは2021年に47%の人が「はい」と答えています。あまり多くないようにも思えますが、2010年にこの質問に「はい」と答えたのはたった21%だったことを考えると、だいぶ進歩しました。

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