【京都タリウム殺人】被告の“妻”が初告白 夫の浮気を確信した“誕生日旅行”、「別居を決意した直後に警察が…」

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「私が追い詰めてしまったのではないか」

 当時を振り返りながら、A子さんが続ける。

「彼女には本当に申し訳ない気持ちがあります。主人と関わっていなければ、とも思いますし……。私が探偵なんか雇わなければよかったではないか、もしかすると、私が追い詰めてしまったのではないか、と」

 声を震わせながらそう語ったA子さんは、その日から一希被告と別居を始め、いまも娘と二人で生活している。今年3月に逮捕されるまで、一希被告とは「子供の両親として、いい関係を築こう」と話し合い、別居していても週末は夕食を家族三人で食べ、遊園地に行くなどしていたという。

 夫の逮捕後、娘は幼稚園を転園した。複数の幼稚園から“花街の名を汚した”、“うちでは預かれない”と断られ、ようやく預かってくれる幼稚園を見つけた。A子さんは今も離婚していない。周りの友人からはその状況に違和感を持たれ、距離を置かれているという。

「パパは遠くで仕事をしている」

 生活は一変した。叔母の件ではA子さんを含む家族全員が警察にたびたび事情聴取を受けた。A子さんの別居先も複数回家宅捜査を受け、PCとスマホを二度も押収されている。それでも、いまは離婚を踏みとどまり。拘置所にいる一希被告に、娘の様子を手紙で伝え続けている。

 それを読んだ一希被告からは<安心しました>と伝言が届くが、ふたつの事件については、<毒殺なんかしていません。裁判で明らかにしていきます>と伝えてきたという。

 目に涙を溜め、時折、ハンカチで目頭を押さえながらA子さんは続ける。

「本当に主人が事件を起こしたのかどうかは断言できません。でも、何かしらで関わっていることは、おそらく……。とりわけ、浜野さんの事件については、なぜそうなってしまったのかをよく考えます。家族や娘の存在が、どうしてストッパーになれなかったのか。それを上回るぐらい、彼が苦しい思いを抱えていたのかな、とか……。もう一度、夫として愛せるかと問われれば、難しいですね。でも、判決が言い渡された時に、万が一、死刑って言われたら、それは悲しいだろうな、主人も心の支えがないときついだろうな、と思ってしまって。縁があって結婚して、娘が生まれたことは事実です。やはり娘の父親なので、どこかで彼のことを信じたい気持ちがある。今はただ、一度も主人と話ができないままに報道や警察のいうことを鵜呑みにしたくない、主人が違うと言うなら、信じてあげようと思っています」

 A子さんは娘に、一希被告の現状について“パパは遠くで仕事をしている”と伝えている。娘はときどき、家族3人が笑っている絵を描いてくれるという。

 同じ父親として、娘を失った浜野さんの両親の気持ちを一希被告は想像できるだろう。事件当日に浜野さんとの間に何があったのか。被害者の家族も、一希被告の家族も、それを知りたいと切に願っているはずだ。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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