【棋聖戦・第1局】藤井七冠が「藤井キラー」の一角を下す 佐々木七段の和装のウラに師弟愛

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愛弟子の晴れ姿に「うるっ」の深浦九段

 佐々木のこの日までの藤井との公式戦対戦成績は2勝2敗で、「藤井キラー」の一角だった。「眼鏡をかけるようになったら将棋盤がよく見えるようになった」と笑わせる佐々木は、この対局まで今期9勝2敗と素晴らしい成績を残していた。

 今回、初のタイトル戦に挑んだ佐々木は、和服を持っていなかった。恩師の深浦九段から薄緑色の着物を譲り受け、袴と羽織は一緒に呉服店に行って購入したという。憧れのタイトル戦に登場するからといって、棋士が必ずしも高額な和服を購入するとは限らず、レンタルにする棋士もいる。

 佐々木は長崎県対馬市の出身。同じ長崎県出身の深浦九段に弟子入りした。師匠の深浦九段はかつて王位戦で3連覇しているが、棋聖戦では同世代の羽生九段に2度挑戦しながら奪還はならなかった。

 若き日の自らと同じく「最強棋士」に挑む愛弟子の晴れ舞台に「今日は自分が普通でないみたいなんですよ」と解説中も少し落ち着かず、「大地のことは小学5年生の時から見てきましたからね。和服姿を見てウルッと来ました」と感無量の様子だった。

 奨励会で修業を積んでいた佐々木が難関の「三段リーグ」で2回の次点となり、フリークラスからのプロ(四段)になったのは今の藤井と同じ20歳の時だった。名人戦順位戦C級2組、竜王戦6組などで停滞していた時期もあったが、みるみる力をつけ、棋聖戦の挑戦者を決める16人の本戦予選で、渡辺明九段(39)や永瀬拓矢王座(30)などを破って挑戦権を得た。さらに、7月からの王位戦七番勝負でも、挑戦者決定戦で羽生九段を破り、藤井への挑戦者となっている。

 藤井が今後、王座戦の予選を勝ち上がって挑戦者となり、永瀬王座を破って王座を獲得すれば、前人未到の全八冠制覇を達成する。だが、その前に、佐々木から棋聖と王位の二冠を死守することが前提だ。7月からは王位戦七番勝負も始まる。

 藤井が叡王戦で菅井竜也八段(31)の挑戦を退け、渡辺明九段から名人位を奪った今、この夏の将棋の話題は「藤井聡太vs佐々木大地」が中心となる。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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