【棋聖戦・第1局】藤井七冠が「藤井キラー」の一角を下す 佐々木七段の和装のウラに師弟愛

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AIは藤井優勢

 産経新聞社の飯塚浩彦会長の「振り駒」で藤井が先手となった。

「先手なら角換わりで行こうと思っていた」という藤井の初手は「2六歩」。互いに飛車先の歩を進める「相掛かり」から角道を開き、佐々木が藤井陣に角を成り込む「角換わり」になった。互いに研究通りで、最初の1時間で60手以上が進む速い展開。しかし、中盤から次第にテンポが遅くなり、徐々に藤井が優勢を築いていく。

「と金」と「金」で迫る藤井の攻めに応じる佐々木について、ABEMAで解説していた黒沢怜生六段(31)は「佐々木さんは粘りに行くとかえって悪くなっていくので、斬り合いに持ち込もうとしているのでは」と推測していた。その通り、佐々木は82手目に「5七歩成」で中央から勝負に出た。

 時折見せる黒沢六段の鋭い読みに、同じく解説者の深浦九段は「黒沢ちゃん、すごいね」とか「なるほど、若い人はそう考えるんだ」などと感心していた。黒沢六段は、藤井が歴史的快挙を成し遂げた長野県高山村で大盤解説の大役を担っていた。

 AI(人工知能)の評価値は終始、藤井優勢だったが、藤井が85手目に「5二と」とすると五分五分になった。それでもすぐに、藤井優勢に戻る。99手目、藤井は「8二」に飛車を打ち込む王手。佐々木は金で守る。その後、藤井が龍を自陣に引くと、わずかに残されていた佐々木の攻めもほぼ絶望的になった。

「慎重になりすぎた」

 日本時間の午後8時40分頃、持ち時間(4時間)を使い果たした佐々木は1分将棋に追われる。その時点で藤井は14分を残していた。この差は大きく、局後、佐々木は盛んに時間の使い方を悔いていた。最後は「4四桂」と金と玉への両当たりになる王手を放ったのを見て、佐々木が投了した。113手の勝負が終わったのは午後8時57分。ベトナムと日本の時差は2時間なので、国内対局なら午後7時前に終わったことになる。

 藤井は「一応、前例のある将棋だったので、早めに進めた。(「5二と」の場面で)長考したけど、変化がわからない。粘り強く指した。お互いの玉が不安定で距離感を掴むのが難しい将棋でした」と振り返った。立会人の小林健二九段(66)は「横綱将棋」と評した。

 佐々木は「互角を保つのが難しくて時間を使ってしまい、終盤、悪手を指してしまった。全体的に局面の急所が見えていなくて、力不足です」と肩を落とした。そして「和服を着て新鮮な気持ちで戦えたけど、慎重になりすぎた。次は万全の準備で臨みたい」と話した。

 大盤会場で佐々木は「海がきれいで、必敗になってから眺めてしまった」などと話した。高層階の対局室からは美しい海や藤井の好きな鉄道(ハノイとホーチミンを結ぶベトナム南北鉄道)も見えたという。

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