【棋聖戦・第1局】藤井七冠が「藤井キラー」の一角を下す 佐々木七段の和装のウラに師弟愛

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 名人戦を制して「史上最年少名人」となり、羽生善治九段(52=永世七冠資格)以来の「七冠」を達成した藤井聡太七冠(20)が、6月5日、次の対局に挑んだ。「気がついたらここに居たという感じです」と語る藤井は、ベトナム中部のダナンで行われた棋聖戦五番勝負(主催:産経新聞社ほか)の第1局で、挑戦者の佐々木大地七段(28)に先勝。同タイトルの4連覇へ向けて好発進を切った。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

ベトナムの料理やスイーツも

 将棋のタイトル戦が初めて海外で行われたのは、1976年にハワイでの対局となった棋王戦である。その後、フランス、イギリス、中国、韓国などでも行われたが、コロナ禍の影響で2019年に台湾での対局となった叡王戦が最後となっていた。

 今回の対局場は「アジアのハワイ」とも言われるダナン湾のリゾートホテル「ダナン三日月」。日本文化を存分に取り入れた豪華なホテルは、2019年の開業に合わせてタイトル戦の実施を日本将棋連盟に打診していたそうだ。しかし、新型コロナの流行で立ち消えとなっていた。

 4年越しの実現にダナン三日月の益子美智緒・会長室室長は「(三日月グループの)初の海外進出で日本文化を打ち出す中で将棋を広めたかった」と喜んだ。

 対局中の昼食は2人ともベトナム風チキンライスの「コムガー」を選んだ。ベトナム中部から北部にかけての一般的な庶民料理という。

 ABEMAで解説する深浦康市九段(51)はこの日の佐々木の昼食について、「いろんなメニューが見たいので、挑戦者がもうちょっと気を利かせないとダメだよね」と注文を付けていた。深浦九段は佐々木の師である。

ベトナムの若者の将棋熱

 藤井は「ベトナム料理も楽しみ」と期待していたが、大事な一局で慣れないものを食べるのは心配もあろう。ホテルには日本料理の料理人まで呼んでいたそうだ。それでも2人の若者は、現地の料理を味わった。

 おやつでは「チェー」というベトナム風のぜんざいと「バンヤロン」という豆風味の餅菓子を選び、ジュースの好きの藤井は対局中に3種類のフルーツジュースを飲み分けて南国情緒を楽しんでいた。

 筆者は数年前、日系人が多いブラジルのサンパウロを訪れた際、将棋クラブを覗いたことがある。「青野照市九段(70)が来てくれる」ということで主催者の日本人らは非常に喜んでいたが、「ブラジルでは年々、将棋の愛好家が減っていて、クラブの会員も少なくなっている」と嘆いていた。青野氏は将棋の海外普及に力を入れてきた名棋士だ。

 囲碁はフランスなどでも人気が高い。一方の将棋は、チェスという将棋に似た競技があることや漢字に不慣れなことなどからか、囲碁に比べると欧米などではあまり普及していない。しかし、ベトナムでは最近、若者の間で人気が出ているそうで、この日は遠くから駆け付けたファンもいて、藤井の直筆色紙をもらい狂喜していた。

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