AIの普及でグラビアアイドルは絶滅する? 「さつきあい」で話題、専門家は“二極化”を指摘

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AIグラビアで「満足」する人たち、仕事を奪われる人たち

 一方、AIグラビアに奪われる部分もあります。グラビアを単純に性的なものとして消費する人を対象としている仕事です。そうした消費者はグラドルたちに人格を必要としていませんから、AIグラドルでも代替が可能です。

 AIグラビアの登場で仕事を奪われるのはグラドルだけでなく、アプリ加工した写真でフォロワーを集めているアイドルやレイヤー、インフルエンサーも同様でしょう。彼女たちは自ら加工することで、顔をAIグラドルたちにむしろ近づけています。同じ顔なら抵抗なく脱いでくれるAIグラビアでいいという人は出てくるでしょう。現在はかわいい、もしくは露出があればフォロワーをある程度増やせますが、今後はAIグラビアにシェアを奪われ、難しくなるのではないでしょうか。

 そもそもこの10年、グラビアと称してSNSで水着になる人があまりに増えすぎました。そうした水着姿が氾濫することで、結果として商業グラビアの過激化も生みました。AIグラビアの登場でインスタントな加工の美しさや、ただ水着になることの価値が落ち、実際の美しさやそれを保つための日々の努力による生の美しさに光があたるのではと期待しています。実際、すでに一部の人たちがSNSで「無加工」をうたい始めています。音楽業界ではサブスクの登場でCDなどの音源の売り上げは一気に下がりましたが、その反動でライブの価値が高まりました。グラビアでも撮影会などリアルでの水着の価値が高まる可能性もあります。

 逆に加工なしでは難しい人たちはAIグラビアと融合を図ることも考えられます。既にAIで顔を変え動画を撮影する技術が出てきており、中国では顔を変えた人物による詐欺も生まれています。生の顔を出さずにAIで顔だけを変化させた覆面グラドルも登場するかもしれません。そうなると、大事になるのは外見ではなく中身、性格になるのかもしれません。

 ドイツ出身の写真家ボリス・エルダグセン氏は、2023年に世界的な写真コンテストである「ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード」でクリエイティブ部門賞を受賞しましたが、その表彰式の壇上で作品はAIによるものだったと明かし、受賞を辞退しました。問題提起としてこのコンテストに応募したというエルダグセン氏は次のように語りました。

「AI画像と写真はこのような賞で競い合うべきものではありません。違う存在なのだから。AIは写真ではない。だから、私はこの賞を受け取らない」

 AIグラビアについても同様に人間によるグラビアとは棲み分けるべきでしょう。

 私はAIグラビアを有名ラーメン店監修のカップラーメンに似ていると考えています。味としては美味しいが、実際に本物を食べると明らかに違うものだとわかります。一方で店のラーメンよりもむしろカップラーメンの方がいいという人もいるでしょう。YouTubeとVTuberが違う支持層を集めるように、AIグラビアも人間のグラビアとは別ジャンルとして確立するのではないでしょうか。

 今回AIグラビアの登場で「優れたものを生み出すのであれば、作り手は人でなくAIでもよいのではないか」「人格は必要ないのではないか」という議論も生まれそうです。これはグラビアだけでなく、小説、音楽、映像と文化、芸術の分野でも起こり得るものです。

 コストの安いAIに人は流れるのか、はたまた人が作るものにこそ価値を見出すのか。AIグラビアは来るべきAI社会の縮図とも言えます。

徳重龍徳(とくしげ・たつのり)
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、著名人のインタビューを担当した。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。個人ブログ「OUTCAST」も運営中。Twitter:@tatsunoritoku

デイリー新潮編集部

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