AIの普及でグラビアアイドルは絶滅する? 「さつきあい」で話題、専門家は“二極化”を指摘

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「AIグラビアアイドル」が波紋を呼んでいる。以前からの「AIが人間の仕事を奪う」論を考えるヒントになりそうな要素もはらむ“彼女”の存在を専門家はどう見るか。グラビアアイドル評論家の徳重龍徳氏が解説してくれた。

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 雑誌「週刊プレイボーイ」のグラビアに画像生成AIを使って生み出されたAIグラドル「さつきあい」が起用されたことが話題を呼んでいます。

 私自身、グラビア評論家をしていること、さらに新技術への興味から画像生成AIを触り、実際にAIグラビアを生成するなどの勉強を今年1月から始めました。そのことを知った編集者に声をかけられ、2月には「週刊SPA!」の「現役グラドルとAIが作ったグラドル、よりセクシーなのはどっち?」という企画に参加し、どちらが優れているかジャッジを務めました。この時には生身のグラドルに軍配を上げましたが、あれから4カ月、AIグラビアは凄まじい進化、浸透を見せていますし、「週プレ」にさつきあいが掲載されたことにも驚きはありませんでした。

「さつきあい」について、AIグラビアを見慣れない人からは「本物と変わらない」など驚きの声が上がりましたが、特別高い技術を持った人が作ったというのではなく、ある程度の知識があれば誰でも作れるレベルという印象です。聞いた話によると「さつきあい」は集英社ではなく、芸能事務所が主導し作ったもので、話題になったことでいろいろと売り込みをかけているそうです。

 AIグラドルを生み出すのに使われるのが画像生成AIです。生成AIとは会話、動画、画像、音楽など新しいものを作成できるAIのことで、最近よく聞くChatGPTもこの一種です。画像生成AIには膨大な量のデータを学習してトレーニングされた学習モデルを使い、「髪色はピンク、服はTシャツ」といった指示(プロンプト)を出すことで、その要望にそったものを生成してくれます。実写を学習したモデルであればAIグラビアを作れますし、イラストを学習したものならばイラストレーターが描いたようなAIイラストが作れます。

「さつきあい」の法的問題は?

「さつきあい」の登場で、SNS上では賛否が分かれました。否定派の意見は大きく分けて(1)著作権の問題、(2)人間の仕事を奪ってしまうことへの懸念があります。これはAIグラビアに限らず生成AI全般でも議論になる点です。

 まず著作権の問題ですが、先ほどAIグラビアを作るには、様々なデータを学習して作られた学習モデルが必要と述べました。AIがインターネットの文章や画像などを著作権者の許諾なく学習することについては日本では2019年に施行された改正著作権法により認められており、違法ではありません。このため日本は「機械学習パラダイス」とも言われます。ただし学習モデルが使用した画像の中に、たとえば会員制サイトで有料公開されたものが使われるなど権利者の利益を不当に害した場合は問題になる可能性もあります。

 さらにAIグラビアのようにAIによって生成された画像についてですが、通常の著作物と同じく既存の画像との類似性、依拠性が認められれば著作権侵害となります。ただ現状は学習モデルがどの画像を使って学習したか調べるのは難しい状況で、著作権侵害かどうかわからないグレーな存在と言えます。

 このためEU(欧州連合)では、学習モデルの訓練の際に著作権のある書籍や写真を使用した場合、全て開示するよう義務付けようと動いていますが、急速なAIの進化に各国の法整備が追いついていないのが現状です。

 今回、週プレがAIグラビアを掲載したことや電子写真集を発売する際には当然、弁護士など専門家と相談し、違法ではないとの判断が下されたのでしょう。しかし週プレを出版する集英社は週刊少年ジャンプなどを抱える、日本最大のIP団体といえる存在です。そもそもSNSではイラストレーターへの尊敬、支持が強い反動から、彼らの仕事を奪う可能性のあるAIイラストへの嫌悪感が強くあります。その中で、集英社がグレーなAIグラビアを掲載したことで、イラストでも同様のことを起こさせないよう反発の声が大きくなった一面もあると考えます。

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