77歳で煎餅職人を志し、80歳で実現 刑務所、少年院出所者にも職場を提供…86歳の挑戦に迫る
出所者を支援
そこまで話してから、いきおい作務衣を羽織った伊藤さんが、手焼き機にガス火をつける。と同時に生地をストーブの近くに並べたのは、水分を飛ばすためのひと手間をかけるためだという。温まった鉄板に乾燥した生地をのせ、押し瓦で押したり、トングでひっくり返したりを繰り返す。醤油だしに浸して2度焼きをする様子を見せてくれた。
「1日130枚くらいね。天候や温度、湿度で(焼け具合が)変わってくるから、毎日、真剣勝負」
と胸を張った伊藤さんが、
「若いモンに、いろいろとアレさせてきたべ」
と、はにかむような表情になった。地元の子供たちの職業体験を受け入れてきたばかりか、少年院や刑務所を退院・出所するなど保護観察対象者への「お試し雇用」(秋田県就労支援事業者機構・法務省秋田保護観察所)を助成金を受け取らずに買って出ている。さらにひきこもりの人に就労体験も提供しているというのだ。
「全然喋らなかったのに、一緒に煎餅を焼いているうちに、あうんの呼吸になるというか、自分から過去や未来を語るようになる子もいてね……」
20年ほど前、妻が「天国へ引っ越し」してから一人暮らし。日の出と共に自宅を出て、自転車を10分こぎ、ここ「イトマン元気村」に来て、日没までいる毎日。その間、お客は来るわ、知人も来るわ。煎餅を焼く手を休め、皆にお茶を入れてもてなし、よもやま話に花が咲く。夕食は、ほぼ毎日なじみの寿司屋で。
「健康の秘訣(ひけつ)? 笑顔だな」