98歳の“看板娘”の健康の秘訣とは? 趣味は麻雀とシャンソン、朝食は「ビフテキ150g」

ドクター新潮 ライフ

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 山手線・日暮里駅近くにある老舗佃煮屋「中野屋」の“看板娘”を務めるのは、金子良子さん(98)。ノンフィクションライターの井上理津子氏が、型破りな半生と健康の秘密に迫った。

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「中野屋は大正12年に父と母が始めたの。店を構えて安心したので、翌年私を“製造”したんでしょう」

「良子の“よし”は、善良の良じゃなくて不良の良」

 軽口の洗礼を受けつつ、勝手ながらファッションチェックさせていただく。えんじ色のモダンな割烹着を着用、赤い帽子から出た髪の毛はオレンジ色。とてもおしゃれだ。仕事ぶりを拝見。

「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか」

 の声がえらく大きい。お客が「おすすめは?」と聞こうものなら、

「ご予算許せばウナギ(の大和煮)いかがかしら。とってもおいしいんですってよ。私はウナギが嫌いだから、食べませんけどね。でも、それでよかったの。私がウナギを好きだったら自分で食べまくって、今頃、お店つぶしてますもの。あっはっは」

 などと一気呵成トークが、たちまちお客の心をつかみ、

「じゃあ、これください」

 と相成る。大皿からの量り売り。ビニール袋に入れて紙で包装し、ひもをかけて、お金を受け取る。お釣りは電卓をたたいてすぐさま。いやはや完璧な接客だ。「ありがとうございました。お足元、お気を付けて」と再び大きな声で送り出す。

「声はお腹から出すの。発声練習しているの」

趣味は「シャンソンと健康麻雀と油絵」

 店は今、おいの代だ。週に4~5日、朝から夕方まで、こうして店に立つだけでもあっぱれなのに、金子さんは「シャンソンと健康麻雀と油絵」に猛烈に情熱を注ぐ人でもある。「発声練習」は、シャンソンを歌うためとのこと。もう長く?

「十数年かしら。昔々、春日野八千代に入れ揚げて以来、ずっと宝塚の大ファンでね。ここしばらくは麻生恵(けい)先生に夢中なの。ご縁ができて、麻生先生にシャンソンを習ってるのよ、私。金子良子でユーチューブを検索してみてくださる?」

 スマホの画面に現れたのは、赤いドレスを着て、ライブハウスで「生きる」を歌う金子さんの姿だった。

〈好きなように生きた この私だから 死の訪れなど 怖くはなかった やり残した事も 沢山あるけれど やる事はやった 人の倍くらい……〉

 しみじみ聴かせる。この歌詞は、もしやご自身の思いと重なっているのでは。と、こちらが想像を巡らしたのを見透かしたように、金子さんが言う。

「子年(ねどし)だからね、ちょこまかちょこまか暮らしてまいりましたよ。ずっと独身。今の言葉で言うと『おひとりさま』。楽しかったー」

 過去形なのは謙遜だ。今も日々を謳歌していらっしゃるのだから。

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