債務上限問題は解決したが…日本人が考えている以上に遥かに深刻なアメリカの惨状
国別の米国債保有高、1位は日本、2位は中国
米議会下院は5月31日、連邦政府の借金限度額を定める「債務上限」の適用を2025年1月まで停止する法案(財政責任法案)を賛成多数で可決した。
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上院も6月1日、本法案を賛成多数で可決し、バイデン大統領の署名を経て成立することとなった。これにより、世界経済の混乱につながりかねない米国債のデフォルト(債務不履行)の回避が確実となった。
米国政府と基軸通貨ドルに対する高い信用から、米国債は世界で最も安全な金融資産とされ、取引の規模も世界最大を誇っている。
米証券業金融市場協会によれば、今年4月末時点の発行残高は24兆ドル。国別の米国債保有高では1位が日本(1兆870億ドル)、2位が中国だ(8690億ドル)。
米国債の利回りは世界の様々な金融商品の基準として参照されていることから、米国政府がデフォルトに陥れば、国際金融市場の大混乱が危惧されていた。
日本を始め主要先進国では債務の上限を定める制度は存在しないが、米国ではこの制度が1917年に導入された。その後、何度も改定が実施され、直近の上限額は2021年12月に定められた31兆3800億ドルだった。
債務上限の引き上げが危ぶまれたのは、今回が初めてではない。1995年、2011年、2013年と3度に及ぶ。いずれも今回と同様、「大きな政府」志向の民主党政権が「予算の大幅拡大に伴い債務上限の引き上げが必要だ」と主張すると、「小さな政府」を目指す野党・共和党が「もっと予算を削減しないと債務上限の引き上げを議会で認めないぞ」と反発する構図だった。
デフォルト回避でも実害が出ることは確実
「米国の債務上限制度は不合理だ」との指摘がある。
債務上限を突破する借金が必要となる予算を承認した議会が、その後に債務上限の引き上げに難色を示す正当性はないからだ。
国際通貨基金(IMF)は5月26日、「今後は予算の承認時に自動的に債務上限を引き上げる仕組みを設け、デフォルトの危機を繰り返さない恒久的な措置を構築すべきだ」と異例の声明を出した。世界の金融システムを危機にさらしかねない米国内の政治対立に、IMFが苦言を呈した形だ。
デフォルトという最悪の事態は回避されたが、今回の合意で米国経済に実害が出ることは確実な情勢だ。
バイデン大統領とマッカーシ下院議長が5月27日に取りまとめた合意では、2024会計年度(2023年10月~2024年9月)について、社会保障を除く「裁量的支出」の国防費を除いた金額を2023年度とほぼ同じ水準にし、2025年度は1%の増加にとどめることになっている。
5月25日付ブルームバーグ・エコノミクスは「想定される歳出削減により最大57万人の雇用が犠牲になり、年内に見込まれているリセッション(景気後退)が深刻化する可能性がある」と予測している。住宅建設の低迷などの逆風に見舞われる中、連邦政府の支出が米国の経済成長を後押ししてきたが、その勢いが弱まる公算が大きいからだ。
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