長野4人惨殺事件、警察が犯した「深刻なミス」とは 「盗聴」被害妄想の息子に銃を持たせた市議会議長にも責任が

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狙撃は念頭になかった?

 とはいえ、犯人は身勝手な妄想で地域社会を恐怖のるつぼへと投げ込んだ。そんな対象は早期に“排除”、すなわち狙撃すべきではなかったか。今回の母親と伯母が「人質」であるかはさておき、国内の人質事件で、犯人射殺で解決したケースは1979年1月、大阪の「三菱銀行人質事件」が最後である。さる警察庁OBが言う。

「父親が市議会議長である上に説得を試みており、また県警本部長は言うに及ばず警察庁幹部にも断を下せる人材がいない。さらに大前提として警察幹部は前例踏襲が第一。こうしたことから、実際には狙撃など念頭になかったのでしょう」

 26日に会見した小山巌県警本部長は、

〈2名が殉職することとなり、痛恨の極み〉

 と述べていた。その厳粛な物言いとは打って変わり、2日後の日曜日にはTシャツに綿パンというラフな格好で、部下と現場を歩く姿があった。視察というより週末の散策といった趣だが、試しに県警本部に尋ねると、

「本部長は現場の確認のため赴きました。服装については動きやすいものとしました」(広報相談課)

 警察力が衰えれば、凶悪犯がほくそ笑むだけである。

統合失調症の疑い

 さて今後の問題は、犯行時の“コンディション”である。先のデスクが言う。

「“近所の女性に悪口を言われた”という事実は確認できておらず、両親も事情聴取でこれを否定している。本人の供述も支離滅裂で、動機の解明は一筋縄ではいきそうにありません」

 それを裏付けるかのような記事も。冒頭の「信濃毎日新聞」の翌29日付紙面だ。父の正道氏が取材に応じており、そこでは、政憲容疑者が東京で一人暮らしをしていた学生時代の話として、

〈住んでいたアパート1階の部屋に入る際、青木容疑者は「ここは盗聴されているから気を付けて」と言った。聞くと、盗聴を恐れて携帯電話の電源も切っており「部屋の隅に監視カメラがある」。だが、両親からはカメラがあるようには見えなかった〉

 驚いた両親は息子を実家に連れ帰り、大学も中退。

〈両親は病院の受診を勧めたが、青木容疑者は「俺は正常だ」と拒否した〉

 一方で政憲容疑者は、

〈「猟銃の免許を取りたい」と言い始めた。正道さんは危険な銃の扱いに不安を覚えたが、狩猟仲間の輪の中で人付き合いができれば─と考えた〉

 ここまで読めば、「刑事責任能力」の有無が焦点となるのはお分かりだろう。診断した医師の目は節穴だったのかと嘆きたくもなるが、

「今回の被疑者が、鑑定留置(医師が犯行時の精神状態を調べる制度)を受ける可能性は高いでしょう」

 とは、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士。

「警官二人の殺害は過剰防衛とみなされるかもしれませんが、女性二人の刺殺については『バカにした』との供述が幻聴や妄想で、統合失調症など精神的な問題の疑いがあるからです。責任能力には物事の善悪を判断する能力と、それによって行動を律する能力があります。そうした能力が十分でなかったとされれば心神耗弱、全くなかったとされれば心神喪失と判断されます」

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