穀物市場で日本が「買い負け」する日は来るか――新妻一彦(昭和産業株式会社代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】

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3人の特命社員

佐藤 社内では2021年に大がかりな人事制度改革が行われたと聞きました。

新妻 20年前に作った人事制度でしたから、さまざまなところで制度疲労が起きていたんですね。世の中の価値観の変化や働き方の多様化についていけなくなっていました。それをイノベーションを生み出したり、課題解決の能力を高めたりする制度に改めたのです。例えば、研究には5年掛かるものもあれば、10年掛かるものもあります。これまで単年度での成功報酬的側面が強い制度でしたので、評価の仕方を変えました。

佐藤 新規事業の立ち上げを目指すP等級という職種を作られたそうですね。Pというのは何ですか。

新妻 「パイオニア」と「プランニング」を掛けた頭文字になります。社内公募で、3人の社員をP等級にしました。いままでのライン、スタッフをすべて外し、特別の予算をつけて、専任でビジネスプランニングをしてもらっています。

佐藤 何歳くらいの方々ですか。

新妻 40歳前後です。

佐藤 脂の乗り切った時期の人たちですね。

新妻 はい。仕事の内容も業界のこともわかっていないと、その任務は果たせません。

佐藤 どんな事業でもいいのですか。

新妻 大まかなテーマは経営サイドから提示しています。一つは「プラントベースフード」、植物代替肉です。この事業はいまもありますが、拡大するにはどうすればいいか、新たな種類のプラントベースができないかなどを研究してもらっています。

佐藤 代替肉は大豆や小麦たんぱくが原料ですから、会社の中心事業と大きく絡んできます。

新妻 もう一つは「アグリビジネス」です。これもすでに動き出し、人工光型野菜工場もあるのですが、これをもっと推し進めるのか、あるいは別のやり方があるのかなどを見極めてもらっています。

佐藤 いまご紹介いただいた二つは、世界的なヴィーガニズム(完全菜食主義)の流れに関係してきますね。ヴィーガニズムは日本にもっと入ってくると思います。

新妻 そうでしょうね。そこまでいかなくても、週に1度しか肉を食べない人が日本でも増えるなど、食生活にはどんどん変化が起きています。

佐藤 私たちが子供の頃は、野菜は安く肉は高いのが常識でした。それが、いまは逆です。菜食主義は、ある程度お金のある層で定着しつつある気がします。

新妻 菜食が増えていることによって、油の消費量も増えているんですよ。特にオリーブオイルやエゴマオイルです。生で喫食する油は、まだまだ増えていくと思いますね。

佐藤 私もそう思います。

新妻 それから最後の一つは、「オレオケミカル(油脂化学)」です。植物油の製造過程で生じる副産物を使って、有益な化学物質を作り出す。弊社はこの分野の開発が遅れていたんですね。その一つである脂肪酸は化粧品や医薬品にも使われますが、ここをもっとブラッシュアップしていきたい。また、いま一時的に止まっているSAF(持続可能な航空燃料)も進めたいのです。

佐藤 その3人には任期があるのですか。

新妻 3年で結論を出してもらうことになっています。

佐藤 会社の将来を決めるプランを出すわけですから、3人の責任は重大ですね。

新妻 大変だと思いますね。ただ、うまくいかなくても、それはそれでいい。なぜ失敗したかを検証して、次に生かせばいいのです。逆に成果が出れば、この制度も含め、次のステップに進めるのかなと思います。

佐藤 なるほど、そのくらい大きく構えていたほうがいいですね。

新妻 私どもは「穀物のプロ集団」です。時代に合わせて食に関する課題やニーズを解決していく。こうした試みでその部分に磨きをかけながら、さらに進化していきたいと思っています。

新妻一彦(にいつまかずひこ) 昭和産業株式会社代表取締役会長
1957年福島県生まれ。明治大学経営学部卒。81年昭和産業入社。2001年広域営業本部長、06年製粉部長を経て09年執行役員となり、12年常務取締役、14年専務取締役。16年に代表取締役社長に就任。23年から代表取締役会長。これまでに製粉協会会長を2度、22年からは日本植物油協会会長を務める。

週刊新潮 2023年6月1日号掲載

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