日本映画のアクションシーンは進化中 ずいぶん変わった業界事情をアクション監督・下村勇二氏が語る
漫画実写化作品の増加がもたらしたこと
岡田准一と綾野剛がガチバトルを繰り広げる、現在公開中の壮絶アクション映画「最後まで行く」が話題だ。観る者にも痛みを共有させるかのようなアクションは、主演の岡田がアクションコーディネーターの園村健介氏と一緒に作り上げた。アクションシーンではスタントマンも活躍するが、かなりハードな部分まで俳優自身が演じているという。
【写真を見る】下村氏らアクション監督が所属するオフィスには本格的な練習場が…携わった作品のポスターなども
世界で毎年多くのヒット作が生まれるアクション映画だが、近年は日本でもアクションシーンを目玉にした作品が目立っている。「キングダム」や「東京リベンジャーズ」、「銀魂」、「るろうに剣心」の各シリーズ、「わたしの幸せな結婚」など、大ヒット作も多い。「体を張る俳優たち」を目にする機会が増え、特に若手俳優は「アクションができる」が必須条件のようにも思えてくる。いったいなぜこのような状況になったのか。
アクションがセールスポイントとなる作品の増加について、アクション監督の下村勇二氏は「一つに漫画を原作にした作品が増えているからでは」と語る。
漫画の実写化はいまに始まったことではない。それが近年目立っている要因には、実写化作品におけるアクションのクオリティが向上したこと、そしてそれらの作品が興行収入ランキングのベスト10に入るようになったことがある。
「日本の映像作品におけるアクションのクオリティ向上は、アクションを専門とするチームからの“提案”を含むプロセスが、制作現場で受け入れられたことと関係していると思います」(下村氏、以下同)
そのプロセスの大きな特徴は“準備期間”だ。アクション監督は「こんなアクションをやりたい」「こうした方が効果的だ」と伝えるためのプレゼンツールとして「ビデオコンテ」を作り、俳優はその動きができるようにトレーニングに勤しむ。
「僕が関わった作品で、トレーニングやビデオコンテなどの準備に予算と時間をかけることが受け入れられたのは、二宮和也さんと松山ケンイチさんの映画『GANTZ』シリーズ(2011年)あたりから。それまでビデオコンテは、あくまでアクション部がプレゼンするためのものであり重要視されておらず、そこに予算はつきませんでした」
ただし、「ビデオコンテはあくまでも設計図」だと下村氏はいう。
「その他にも、戦いをよりスリリングかつ安全に演出するために必要な武器や環境を整えます。さらに実際の撮影現場では、俳優の動きを見て演出を変えていくのです」
この“準備期間”がない場合、どのような影響が出るのだろう。
「現場で時間がないため、アクションは本人ができる範囲にとどまり、吹き替えが多くなったり、カットを割ったり、クローズアップが増えたりと、ごまかす部分が増えてしまう。本人が動ければその分、迫力ある流れで見てもらうことができるわけです。それは観客にも伝わりますよね。撮影所の全盛期は、殺陣とアクションの訓練やノウハウの蓄積があったので、準備期間なしでできたのだと思います」
また、実写化作品に求められるクオリティ自体も上がっている。
「漫画原作では、リアルだけではなく、キャラクターの持つ超人的な魅力も求められます。そのためワイヤーを使ったり、CGが絡んだり、テクニカルなアクションが増える。そうなると現場だけでは予算的にも、時間的にも対応できません。
アクション部の仕事は昔に比べ細分化され、監督や各部署との打ち合わせから、ビデオコンテを作り、そこで合意したアクションを演じる準備を、撮影に先んじて俳優と始めることまでが“アクションチームの仕事”となりました。それが浸透してきたことが、アクション業界のクオリティを飛躍的に上げたんだと思います」
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