ミスチル“桜井和寿”が憧れた伝説のボーカリスト「ROGUE・奥野敦士」 “車イス”で駆け抜けた「不屈のライブ」10年の軌跡
腹筋を動かせず“歌えない”状態に
奥野は2008年、ROGUEの再結成に向け、体力づくりも兼ねて解体業者でアルバイトを始めた矢先に、屋根から転落して7メートル下のコンクリートに叩きつけられた。目が醒めた時は病院のベッドの上。頸椎を損傷し、胸から下がまったく動かない半身不随の身となっていた。
「事故の直後は、何度も“死にたい”と思ったよ。それまで普通にできたことが、何もできなかったんだから。自分で起き上がることも、食事もできない。あれもできない、これもできない、絶望しちゃうのは当然だよね」
最もつらかったのは「歌えないこと」だったという。腹筋さえ自分で動かせないため、腹式呼吸ができなかったのだ。
「それでも、文明の発展のおかげもあって、リハビリをして少しずつ色々なことができるようになった。タブレットを使って文章を書くこともできるし、電動車イスも操作できることに気付いた。そうしたら段々、“あれもできる、これもできる”ってポジティブな発想に変わったんだ。車イスのベルトにお腹を押し付けることで腹式呼吸を再現して、歌も歌えるようになった」
奥野は事故から数年後、車イスに座ったままルイ・アームストロングの名曲「WHAT A WONDERFUL WORLD」を歌う動画をYouTubeにアップした。その動画を目にして、かつて憧れていたミュージシャンの境遇を知った桜井は、自身が主催するライブイベント「ap bank fes '12」への出演を奥野に依頼しに来たのだった。
「でもその時は丁重に断った。事故の後、汗がかけない身体になってしまって、体温調節もできないから真夏のイベントは無理だと思ったんだ」(奥野)
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