子どもを亡くし、夫からはDV… 100歳の三味線奏者が語る凄絶な半生 元気の秘訣は「共演者たちへのお裾分け」
演目が始まると、鬼気迫る表情に
「御年100歳でシャキシャキ」と浪曲ファンの間で有名な曲師(浪曲に伴奏をつける三味線弾き)の玉川祐子さん。ノンフィクションライターの井上理津子氏が、凄絶な半生と「生涯現役」の秘密に迫った。
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【写真を見る】舞台上での玉川さん 100歳で観客を沸かせる姿は圧巻
浪曲は、物語を聞かせる浪曲師と曲師の二人で成り立つ芸。東京・浅草にある浪曲の定席・木馬亭の舞台に、浪曲師・港家小そめさん(53)の合い三味線として、毎月出ておられると知り、伺った。
「通常、曲師さんは(舞台に立てた)衝立の向こうで三味線を弾かれるので、客席から見えませんが、『祐子師匠の姿を一目でいいから拝みたい』というお客様が多くて、特別に衝立を外させていただいています」
と、最初に小そめさんが断りを入れると、会場から大きな拍手。舞台右手にちょこんと座っておられる、三味線を持った祐子師匠(と呼ばせていただきます)が少しにっこりしたが、演目が始まると、たちまち鬼気迫る表情に。小そめさんの威勢のいい言葉が、祐子師匠の弾くアップテンポの三味線に気持ちよさそうにのる。そして所々に、
「いよっ」
「ほっ」
祐子師匠が声を張り上げる。物語を盛り上げるための掛け声だ。ドスの利いた時あり、狂気漂う時あり。おかげで、観客もまた心の中で一緒に掛け声を出し、物語に前のめりになっていくと私は感じた。
かわいくて仕方ない弟子と二人三脚
舞台が終わった後、そう言うと、小そめさんは、
「そう、祐子師匠は“掛け声名人”なんです。曲師によって掛け声は全く違いますが、祐子師匠は持ち上げてくれます」
そうかいそうかい、と目を細めてご本人が続ける。
「舞台に上がったら、悲しいシーンは(浪曲師と)一緒に悲しくなってくるし、ここぞのシーンは一緒にここぞ。お腹から声を出して、合いの手を入れて、この人と一緒に芸をやるんだ。この人、目の中に入れても痛くないほどかわいい、私の宝物ですからね」
師匠、私のことはいいんです、と小そめさんが言ったが……。
「私は(港家)小柳(こりゅう)さんと親友でね。10年前、小柳さんからこの子を弟子に取るかどうかの相談を受けて、『取るなら応援するよ』と言ったんだ。小柳さん、六つ下なのに死んじゃったから、私に責任がある」
親子以上に年の離れた、かわいくて仕方ない弟子と、全力を挙げて二人三脚なのである。
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