ツール・ド・フランス7回完走の新城幸也が語るロードレースの醍醐味(小林信也)

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眠れるのも才能

 覚悟を決めた新城は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長した。1年目は2位が最高だったが、2年目に4勝してナショナル・カテゴリーに上がる。06年にはプロ契約。09年、ツール・ド・フランスに初出場し、完走した。

「沿道のファンがすごく近い。ロードレースはファンと一緒に作るのが魅力です。左右50センチくらいの近さから『行けー』とか、すごい顔で叫ぶ。人ってこんなに熱くなれるんだってこっちがパワーをもらいます」

 グランツールを戦うためには〈体力をいかに回復するか〉も重要な技術だ。

「毎日レースが終わった瞬間から翌日に向けたリカバリーが始まります。飲み物、補給食を取り、トリートメントを受けて早く寝る。9時間から10時間は眠ります」

 眠れるのも才能だ。

 リモート取材の画面越しに見る新城は〈エネルギーの塊〉だった。取材を始めた瞬間、武骨で人懐っこい笑顔に心をつかまれた。

 7月1日から23日まで開催されるツール・ド・フランスに出場できるかどうかはまだわからない。レース直前にチームが判断する。

「今年は調子もいいし、出たいですね」

 とここまで書いた直後、報せが入った。

「5月6日に始まるジロ・デ・イタリア出場が急きょ決まりました」

 コロナ陽性になった仲間に代わり、新城が抜てきされた。開幕2日前の急展開だった。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2023年6月1日号掲載

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