定年間近で始めた陸上で世界記録保持者になった92歳アスリート! 食生活、トレーニング法は?

ドクター新潮 ライフ

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「5年ごとに夢が自動的についてくるのが魅力」

 世界最速の90代アスリートが日本人であることをご存知だろうか。青森市に住む田中博男さん(92)は「世界マスターズ陸上」の85~89歳、90~94歳クラスの100メートル走など8種目で世界記録を保持しているのだ。ノンフィクションライターの井上理津子氏が「最速」の秘密に迫った。

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「私に言わせると『夢や目標は手を伸ばせば届くところに置け』です。マスターズ陸上のクラスは5歳刻み。5年ごとに夢が自動的についてくるのが魅力でして」

 こう語る田中さんは、ウインドブレーカーに斜め掛けのバッグと、いでたちも若い。青森の市中を歩けば、知人に会い、「この間、テレビに出ているのを見ましたよ、先生」と言われることもたびたび。

59歳で出会った陸上競技

 田中さんは元小学校教員だ。「子供の頃から運動神経はほどほどに良かった」が、長じたのは軍靴の足音が響く時代。太平洋沿岸へ学徒動員されていた旧制中学3年の時に敗戦。焼け野原となった青森市で始まった戦後もスポーツどころではなかった。教員不足の時勢の下、県立青森高校を卒業するや青森市近郊の小学校に勤務。それ以降、懸命に働いてきた。陸上競技に出会うのは、定年を半年後に控えた59歳の時。

「新聞でマスターズ陸上の大会の告知記事をたまたま見たんです。走るのは健康につながるし、道具も不要。いつでもどこでも自分のペースでできそうだと」

 田中さんはマスターズ陸上の仕組みを調べ、膝をたたく。35歳以上・5歳刻みの競技クラスが特徴で、仮に59歳で年下の選手に歯が立たなくとも、60歳になれば所属クラスで最年少となり、自ずと優位を狙えると知ったからだ。

 定年を機に公園や道路を走ってみると、肌で感じる空気は心地よく、ハマっていく。60歳の時、恐る恐る青森県の大会で100メートル走に初出場したのだが――。

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