中国が尹錫悦をムチ打ち始めた 米中半導体戦争で繰り出した「4つのNO」

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「サムスンは穴埋めに応じるな」と米国

――なぜ、今なのでしょう。

鈴置:3月16日と5月7日の2回に亘る日韓首脳会談。4月26日のワシントンでの米韓首脳会談。5月20日のG7(先進7カ国)首脳会談の拡大会合。いずれの場でも、尹錫悦大統領は米国・日本との同盟強化を明確に打ち出しました。

 中国はそれにはクギを刺す必要があると考えたのでしょう。さらに、くすぶっていた「米中半導体戦争」が突然、燃え盛ったことも影響したと思います。

 5月21日、中国政府は世界3位のメモリー・メーカーである米マイクロンの半導体に重要な保安上の危険があるとして、自国の主要インフラには使わせない、と宣言しました。中国国家インターネット情報弁公室(CAC)の発表(中国語)です。

 もちろん、米国が主導して繰り広げる半導体分野での中国包囲網への反撃です。米国は日本やオランダも誘い、先端半導体の製造装置を中国に輸出しないなどの手を着々と打ってきました。

 米国は韓国に対してはメモリー1、2位のサムスン電子、SKハイニックスの中国工場の先端化と能力拡大に歯止めをかけました。ただ、いずれの中国工場も準主力工場なので韓国側は抵抗しています(「今度は『半導体』で日本を騙す韓国 来日の尹錫悦が繰り出した必死の作戦」参照)。

 韓国の「米中板挟み」は中国のマイクロン制裁により、さらに複雑な状況に陥りました。中国の反撃を見越した米国は韓国に対し、制裁でマイクロンの対中販売が減る分を代わりに中国に供給しないよう求めていたからです。マイクロンへの制裁を阻止する狙いです。

 米国の要求については4月下旬にFT(ファイナンシャル・タイムズ)が特ダネで書いています。NIKKEI Asiaの「U.S. urges Seoul not to fill China gaps if Beijing bans Micron chips」(4月24日)で読めます。

韓国に火事場泥棒させる中国

――韓国はマイクロンの「穴埋め」をするのでしょうか。

鈴置:政府、企業ともに明確な判断を示していません。それはそうです。「穴埋め」すれば米国から火事場泥棒かつ裏切り者と見なされ、同盟が危機に瀕するかもしれません。「穴埋め」しなければ、メモリー不足に陥る中国から報復されるのは確実です。

――いつもの時間稼ぎに出たのでしょうか、韓国は。

鈴置:そのつもりだったようです。ところが中国はすっかりお見通し。まずは、冒頭で紹介した「4NO」を突き付けた。穴埋めしなければ②の「親米一辺倒」にも、③の「緊張持続」にも相当する、と中国は言い出し、報復に乗り出すでしょう。

「4NO」通告は「マイクロン制裁」発表の翌日です。韓国政府は縮み上がったと思います。そこに中国はさらなるクギを打ちこみました。

 5月26日、APEC(アジア太平洋経済協力会議)貿易相会合が開かれた米・デトロイトで、中国の王文濤商務相と韓国の安徳根(アン・ドックン)産業通商資源部・通商交渉本部長が会談しました。中国商務部は以下のように発表(5月27日、中国語)しました。

・安徳根氏は近年、韓中経済貿易関係の重要性が継続的に強化されており、両国の緊密な協力関係が世界のサプライ・チェーンの安定性と円滑性を確保する上で重要な役割を果たしていると述べた。
・双方は半導体産業のサプライ・チェーンにおける対話と協力を強化することで合意した。

 中韓両政府が半導体の供給体制での協力強化に合意した――韓国はマイクロンの穴埋めに応じると約束した、というのです。

 一方、韓国・産業通商資源部の発表(5月27日、韓国語)は以下に留まり、半導体には一切触れていません。

・安本部長は中国の王文濤商務相と通商長官会談を持ち、相互尊重を基に両国経済協力関係を発展させていく方案について議論した。
・安本部長は中国側に貿易円滑化と核心原材料・部品需給安定化のための関心と支援を要請し、中国内の韓国投資企業の予測可能な事業環境を造成するための協力を要請した。

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