“五輪疑獄”もどこ吹く風…「遠藤利明」組織委副会長が、スポーツ界“総本山”のトップ就任への違和感
「平和の祭典」が有名無実化
聞こえて来るニュースを総合すると、不祥事の要因は私腹を肥やした元理事と、彼と謀議した企業や代理店、中でも大手広告代理店こそが諸悪の根源だという落としどころで世間を納得させようとする流れにも感じる。大手の代理店さえ追放すれば、腐った根元は一掃できると言いたげな様子だが、それではまったく足りない。スポーツが、その普及振興のためでなく、政財界の思惑のために利用される限り、おかしな問題は尽きないだろう。
それでは誰がスポーツを主体に考え、リーダーシップを発揮してくれるのか。
遠藤氏は、中央大学時代にくるみクラブというラグビークラブでプレーした経験の持ち主だ。くるみクラブは勝利至上主義に走らず、いまから50年以上も前に「楽しい、明るい」を基本に生まれた。遠藤氏は創始者の桑原寛樹氏に直接薫陶を受けた学生だから、もしそのスピリットがいまも生き、それを日本のスポーツ界に反映してくれるなら願ってもない人材とも言えるのだ。しかし、ここ数年の遠藤氏の行動・言動を見る限り、残念ながらその貴重な経験は生かされていない。
札幌2030の招致活動はさすがにトーンダウンしているが、開催地決定を先延ばししたIOC(国際オリンピック委員会)の判断が救済となり、まだ札幌市もJOCも立候補を取り下げていない。商業主義と勝利至上主義が行き過ぎて「平和の祭典」の看板が有名無実化している五輪にどれほどの開催価値があるのか? という問いかけはされないまま、粛々と招致に向けた活動が続いている。
何もしない山下会長
遠藤会長内定のニュースと共に、「JOC山下泰裕会長は再任」と報じる記事もあった。これにも驚いた。JOCの選手強化本部長として東京五輪に向けて強化を進めていた時、「目標は金メダル30個」と言っていたのはまだしも、2019年6月にJOC会長になってもなお「金メダル30個」の目標しか口にしなかった。金メダル以外にスポーツの価値を見出せない、勝利至上主義に思考を支配された人なのかと落胆したものだが、コロナ禍で大会が延期された時は「延期」を決める安倍晋三首相(当時)とIOCバッハ会長のリモート会議の席に呼ばれなかった。要はお飾りでしかなかったのかと、これも大きな落胆を与えた。
異常事態を黙殺するメディア
日本のオリンピック・ムーブメントの代表であるはずの山下会長が政治家の脇に追いやられ発言もできなかったのだ。それどころか、コロナ禍で苦しむスポーツ界にあっても、贈収賄などの不祥事発覚で揺れる騒動の中でも、さらにはロシアのウクライナ侵攻で世界の平和が脅かされスポーツが平和に貢献できないものかと一縷の望みを託されたときも、山下泰裕会長はほとんど力強いメッセージを発してくれなかった。柔道が大好きなプーチン大統領とはかねて交流があったため、山下会長にプーチンへの働きかけを期待する声もあがったが、「直接やり取りできるコネクションは持ち合わせていない」と語り、少しも平和への行動を起こさなかった。
そのようなリーダーとも言えないリーダーをもう一期再任する状況ではないはずだ。それでもスポーツ界は、いやスポーツ界の人事に影響を持つ権力者たちは、山下氏を会長に選ぶという。
私が無為とも思える声を上げているのは、「遠藤新会長誕生」「JOC山下会長再任」という、あってはならない事態をそのまま黙認する日本社会では希望がまったく持てないと感じるからだ。統一教会やジャニーズ問題などでメディアのあり方が厳しく問われるいま、スポーツ界もまた同様の現実に支配されていることに気づいてもらいたい。
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