【らんまん】東京編に入って視聴率上昇中 万太郎にとっての竹雄はドラえもんか
竹雄は万太郎にとってのドラえもん
竹雄は「峰屋」の番頭・市蔵(小松利昌・50)の息子。小学校に通ったことすらない。時代がそれを強いた。万太郎が9歳の時、土佐の学問所「名教館」に入ると、一緒に通ったが、自分は学べなかった。講義中は外で待っていた。単なるボディガード役だった。むごい時代だ。
「名教館」で万太郎が学友の広瀬佑一郎(中村蒼・32)から竹刀で打たれそうになると、竹雄はその竹刀を右腕で受け止めた。
「これ以上は……。代わりにワシを打ち据えてつかあさい!」( 竹雄、第7話)
竹雄の万太郎への接し方はまさに献身的だ。今の時代、ドラマで男性が同性のために体を張ると、ボーイズラブ(BL)と言われがちだが、竹雄の場合は違う。万太郎の義姉で「峰屋」にいる綾(佐久間由衣・28)に恋心を抱いている。
竹雄が万太郎に尽くす理由の1つは「峰屋」への忠義心だろう。しかし、それ以上に4歳年下の万太郎のことが好きでたまらないのだ。忠義心だけでは、常識がすっぽり抜け落ちている万太郎のお供は出来ない。この朝ドラは万太郎と竹雄の友情記でもある。
万太郎が高知で自由民権運動に関係し、集会条例違反で逮捕されると(第22話)、綾が「おばあちゃんに知らせんと!」と叫んだ途端に駆け出し、「峰屋」のある佐川村(現・佐川町)までの約23キロを走り抜いた。着くと倒れ込んだ。
万太郎と一緒にいると、ろくな目に遭わない。それでも「若」と呼び、立て続けている。お供として上京することも自分の意思で決めた。愛する綾のことは二の次だった。やはり万太郎が好きでたまらないのである。誰にでもそんな友人がいるはずだ。
一方、万太郎にとっての竹雄はドラえもんに近い存在ではないか。常に自分を守ってくれて、望みがあると、それをかなえるための力を貸してくれる。ピンチになったら助けてくれる。
万太郎と竹雄が暮らす十徳長屋での炊事と洗濯も当たり前のように竹雄が担当している。万太郎も飯炊き番ぐらいはするが、コメを真っ黒に焦がしてしまうこともある。植物に関すること以外はまるでダメなのだ。
万太郎がタキから金を受け取っているものの、いずれは底をつくので、竹雄は神田の西洋料理店「薫風亭」で給仕として働いている。一方で万太郎は長屋の差配人(管理人)である江口りん(安藤玉恵・46)を「薫風亭」に招いた(第37話)。
竹雄は「若、節約せんといかんのに、こんなとこに来ちゃいかんでしょう」と気色ばんだ。そりゃそうだ。竹雄が金を稼ぐそばから万太郎が使ってしまったら、元の木阿弥である。
しかし、万太郎は涼しい顔。それどころか、りんに向かって、「こうやって竹雄が働いてくれますき、家賃は心配いりません。さっ、もりもり食べましょう」と、言う始末。竹雄に対する感謝の気持ちは一貫してゼロに近い。
それでも万太郎が視聴者側に愛されるのは、邪心がないから。それ以上に大きいのが、神木が演じているからだ。言葉や表情に嫌味がない。もしも万太郎を好感度の低い俳優が演じていたら、大炎上していたかも知れない。
竹雄役の志尊も適役だ。この朝ドラは志尊のジャンピング・ボードになるのではないか。
デビューは2011年のミュージカル「テニスの王子様」2ndシーズンだった。以来、キャリアを重ね、NHK「ドラマ10」の「女子的生活」(2018年)などで主演も務めている。この人も嫌みがない。
朝ドラは2度目で、「半分、青い。」(2018年度上期)では同性愛者の漫画家・藤堂誠に扮した。これも目立つ役柄だったものの、印象の強さは竹雄役のほうが上に違いない。
役柄の難易度も竹雄のほうが高い。万太郎に振りまわされながらも寄り添い、根気よく面倒を見ている。下手な人が演じたら「なんで、そこまでするの?」と疑問を持たれてしまうが、志尊がやると自然に受け止められる。志尊自身の雰囲気がやさしいし、役に成り切っているからだ。
竹雄は時には万太郎を叱る。しかし、それも万太郎のことを思ってのこと。いたれりつくせりである。こういう一方通行に近い友情記も面白い。友情の形はさまざまだ。
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