今期最も質の高い役者陣がそろう「unknown」 吸血鬼ファンタジーなのに「恋愛モノ」として説得力がある理由

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「吸血鬼かよ、ファンタジーにも程がある!」と視聴をやめた方、後悔するわよ。「ちっともサスペンスじゃねーじゃん、『おっさんずラブ』的なコメディーじゃん」と思った方、ま、そこは否めないが、それだけじゃないのよ。今期、不倫やら復讐やら格差恋愛やら契約結婚など「ざっくり分類すれば恋愛モノ」が多いのだが、最も信頼と愛おしさが深いイチャコラシーンを見せているのが高畑充希と田中圭。「unknown」の話である。

 高畑が演じるのは週刊誌記者・闇原こころ。実は吸血鬼一家の長女だ。医師の父(ノリノリ吉田鋼太郎)、キャスターの母(イケイケ麻生久美子)、捜査1課刑事の弟(塩対応のZ世代・井上祐貴)と、書くだけでも盛りすぎが伝わる設定ね。

 こころと結婚する予定の警察官・朝田虎松を演じる圭。父親(井浦 新)が殺人を犯し、自らが通報した過去をもつ。下町の交番に勤務、事情を知る先輩警官(熱くて暑苦しいが超絶いい人・小手伸也)に公私ともに支えられ、町民からも愛されている。口の悪い駄菓子屋の梅婆(うめばあ・木野花)に、がらっぱちなクリーニング屋(ファーストサマーウイカ)、適当だが居心地よさげな居酒屋の店主&店員(親子ではなくカップルだった酒向芳&長田成哉)。番組HPの相関図で人物像を詳しく書きこんであり、各キャラへの愛情も深いとわかる。

 吸血鬼×殺人犯の息子という秘密を抱えたふたりが、互いの境遇を理解&共有し、幸せに結ばれるはずだが、巷を騒がす連続殺人事件が何やら暗い影を落とす……。

 各回の冒頭やラストに差し込まれる断片的なモノクロ映像(血と花だけ赤)がサスペンス要素を盛り上げてはいるのだが、逆に、ちゃんとした恋愛モノとして観ようと襟を正す。高畑&圭のイチャコラシーンの親密度が想像以上に高かったから。しかも、そこに最強のライバルが存在するから。

 こころの同僚でカメラマンの加賀美圭介(町田啓太)が近年まれに見る好敵手なわけよ。三角関係の一辺が超極太になるほど、高畑への愛情がダダ漏れ。まなざし、思慕、距離感と圭に負けていないわけで。恋に遠慮は不要。とはいえ、高畑が恋人と友達の温度差をきっちり演じ分けているので、町田ほどの好敵手でも分が悪い、納得の構図に。高畑×圭×町田の三角関係はもはや演技力合戦の域。セリフにはない愛おしさをどこまで表現できるかという闘いになっている(気がする)。

 鋼太郎&麻生の特盛コント劇場も興味深いが、それは配信のテラサでどうぞ。個人的には、役者の力量を肌で感じる、上質な恋愛モノとして愛でておるわけだ。

 崖から落ちて死んだはずの父・井浦が登場するわ、ファーストサマーウイカがうっかり殺されちゃうわで、考察班もうごめき始める展開へ。

 カメオ出演の千葉雄大や志尊淳も含め、今期最も質の高い役者陣がそろう作品。他のドラマの主演がほぼ同じ事務所のタレントで固められ(今更だけど異様だよ)、物語の説得力を失っている中、この作品は本物。日本ドラマの質の向上に必要なのは役者を信じることよね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年6月1日号掲載

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