木で高層ビルを造って林業と地方を再生させる――隅 修三(ウッド・チェンジ協議会会長)【佐藤優の頂上対決】

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木で高層ビルを造る

佐藤 木材の需要というと、まずは住宅ですね。

 そうです。でもそれには限りがあります。当時、いろいろと考えていた時、ヨーロッパではCLTという新しい木材技術が発展し、それを使ってビルが建ち始めている、という話を聞きました。つまり木材でビルを建てることができる。これだと思いました。都市のビルをすべて造ればいい。

佐藤 それなら非常に大きな需要が生まれます。

 私は東京海上ホールディングス会長だった2015年に経済同友会に入ったのですが、まず地方創生の委員会を立ち上げ、2018年には「地方創生に向けた“需要サイドからの”林業改革~日本の中高層ビルを木造建築に!~」という提言を行いました。あの時のレポートは非常に反響が大きく、カラーの写真も入れ、門外漢の人が読んでもわかりやすくなるように作ったので、何年も増刷され続けましたね。

佐藤 木造高層ビルを可能にするCLTとは、どんな素材なのですか。

 クロス・ラミネイティッド・ティンバー(Cross Laminated Timber)の略で、加工されたひき板を繊維方向が直交するように積層接着して強度を高めた集成板です。他にもラミネイティッド・ベニア・ランバー(Laminated Veneer Lumber)、LVLという単板積層材もあります。こちらは単板を繊維方向が平行になるように積層接着して強度を増したもので、長尺の部材を製造することができます。

佐藤 私の浦和高校時代の同級生に農林水産省の事務次官だった末松広行氏がいます。彼から10年くらい前に「木が燃えやすいとか、弱いというけれども、それはもう解消されているよ」と聞いたことがありますが、それですね。

 どちらの素材も十分な強度がある上、木はコンクリートに比べ養生期間が不要で、工期が短縮できます。また重量が軽いため、基礎工事が簡略化できます。でもみなさん、「木材でビルが建つはずがない」と思い込み、なかなか考えを切り替えることができない。木は燃えるし、腐るし、折れるじゃないか、しかもヨーロッパと違って日本は地震大国じゃないか、というわけです。

佐藤 腐るや折れるに関しては、すぐに反証できますよね。世界最古の木造建築は法隆寺で、1300年の歴史がありますし、数百年以上維持されている寺院はいくらでもある。

 その通りです。

佐藤 そうなると問題は、「燃える」ことですね。これも克服されているのですか。

 木質耐火部材の開発もずいぶん進んでいます。そもそも木を何層にも貼り合わせたCLTの柱は、仮に周りが燃えたとしても、表面に炭ができて中に酸素が行かなくなります。ですから内部は燃えにくい。またその層の間に石こうボードやモルタルの薄い膜を入れれば、外は燃えても、内部は燃えずに残ります。

佐藤 なるほど。

 また、木は鉄より熱に強いのです。その強度を温度と時間の推移から見ていくと、木は徐々に強度が失われていきますが、鉄はある時点でストンと急落する。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロで、ジェット機が突っ込んだ世界貿易センタービルが崩壊したでしょう。あれは鉄が熱に弱いので、突然、崩れ落ちたのかもしれません。

佐藤 仮に木ならば、逃げる時間がもっとあったかもしれない。

 いまの木造は設計次第でどんどん強度を増せますし、地震にも対処できる技術があります。こうしたことを、全国を回ってお話ししているのですが、なかなか認識が変えられない。それなら実際に建てて、見てもらうしかない。

佐藤 百聞は一見にしかず、ですね。

 実は公共建築においては、林野庁が主導して2010年に「公共建築物等木材利用促進法」が施行され、国産木材でかなり大きな施設が造られています。ただ公共建築物だけでは、雀の涙ほどの需要しか期待できません。私は日本中の民間のビルを木で造ろうと考えているんですよ(笑)。

佐藤 すでに日本で何棟も木造の高層ビルが建っているのですか。

 鉄骨と組み合わせたハイブリッド構造のものですが、いくつかあります。例えば「HULIC & New GINZA8」ですね。不動産会社のヒューリックさんが建築家の隈研吾さんと組んで造られたもので、地上12階建て、高さが60.5メートルあります。

佐藤 ヒューリックの西浦三郎会長にはこの欄にご登場いただいたことがあります。そこで耐火木造建築に取り組んでおられることをうかがい、銀座のビルのお話も出ました。そのビルですね。

 その他にも、北海道の札幌にある地上11階建て、高さ46メートルのホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」や、宮城県仙台市の地上10階建て、高さ33メートルのマンション「PARK WOOD 高森」などがあります。

佐藤 海外ではもっと高い木造建築ビルもあるのですか。

 ノルウェーには85メートルのビルがありますね。日本はこれからです。私が相談役を務める東京海上日動火災保険は、皇居前の赤れんがのビルが本店ですが、この高さ100メートル超の高層ビルを、木を中心にした同じ高さのビルに建て替える計画が進んでいます。低層の基礎部分は鉄骨ですが、それより上は全部木です。屋上には森を造ります。

佐藤 完成はいつですか。

 2028年です。実際に木造ビルを建て、中に各地のビルオーナーの方々に入ってもらい体感していただく。そうすれば、ビルを建て替える際の選択肢になるはずです。

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