荒れ狂う“猛牛”に“カネやんキック”が炸裂…地方球場「三大乱闘事件簿」
「ぶつけたら、帽子を取って謝れ!」
プロ野球の地方球場で開催される試合は、球場全体に独特の熱気が溢れるなか、観客はもとより、時には選手もエキサイトする。その結果、球史に残る大乱闘事件に発展したこともあった。【久保田龍雄/ライター】
「火の国・熊本で巨中大乱闘!」の見出しで報じられたのが、1987年6月11日に藤崎台球場で行われた巨人対中日戦である。巨人が4対0とリードの7回2死二塁、中日・宮下昌己の初球がクロマティの右脇腹を直撃したことがきっかけだった。
「ぶつけたら、帽子を取って謝れ!」。怒り心頭でマウンドに詰め寄るクロマティに対し、宮下は謝る素振りも見せない。
次の瞬間、クロマティの右ストレートが宮下の顎に炸裂する。これを合図に両軍ナインの大乱闘が勃発。あちこちでパンチやキックが飛び交い、中日・星野仙一監督も鬼の形相で巨人・王貞治監督の左肩を小突き、激しく言い合った。
スタンドのファンも生で見る機会が滅多にない乱闘シーンに興奮し、約300人が外野フェンスを乗り越えて、グラウンドに乱入。熊本南署員ら約50人が制止にあたるひと幕もあった。
暴力事件を起こしたクロマティは7日間の出場停止と制裁金30万円の処分を受け、殴られた宮下は全治10日間のケガと診断された。
桑田真澄の内角攻めが“伏線”に?
「完本プロ野球乱闘伝説」(佐野正幸著 ミライカナイ)巻末に収録された著者と宮下元投手の特別対談によれば、この日の乱闘は、巨人の先発・桑田真澄が落合博満や宇野勝に厳しい内角攻めを行っていたことが伏線だったという。
中日側も当然「ウチもいったれ」と熱くなったが、先発・杉本正が厳しく内角を突くタイプではないことから、宮下にお鉢が回ってきた。リリーフ3イニング目の7回に意を決して、クロマティの胸元を突くと、本当に当たってしまった。
これまでクロマティは、死球を受けても、相手投手に手を出したことがなかったので、「時にはぶつけておいて帽子を取らずにふてぶてしくしてるのもありかなと思った」そうだが、この日は勝手が違った。「うわ、来んのか?」と驚いたときには、すでに遅かった……。
試合再開後、星野監督は「まだ投げられます」と訴える宮下をあえて降板させた。平常心を失った状態で続投し、次打者・原辰徳の頭にぶつけたら大変と危惧したのだという。頭に血が上っているように見えても、内心は冷静そのもの。闘将の闘将たる所以である。
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