「わたしの川柳コンクール」受賞作から消えた“自虐”“揶揄” 「毒が足りない」「自虐時代の方が楽しかった」の声も 過去作を振り返り変化を考察してみた

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ちょっとかわいそうですね

 ただし、妻の容姿をいじるのは許容されており、「しゅうち心 なくした妻は ポーニョポニョ」は、時々見せる夫からの抵抗とでも解釈できようか。同首は、男性アイドルユニット「羞恥心」が流行ったのと、映画『崖の上のポニョ』がヒットしたことにもかけており、世相を捉えた巧みな一首だ。これに加え「プロポーズ あの日にかえって ことわりたい」のように、「昔はあんなにきれいで優しかったのに今はすっかり…(以下自粛)」という気持ちを時々出すことは許されていた。

 だが、基本的には「夫が妻に頭が上がらない」「夫が会社で時代に取り残されている」「妻の扱いに夫は常にビビる」「夫の稼ぎが悪く妻に怒られる」「父は娘から距離を置かれる」「夫は部下からバカにされる」といった「男性が嘲笑の対象」的内容がウケやすかった。テレビ番組も男性のMCやコメンテーターが「いやぁ、ウチと同じですね(笑)」と苦笑しながら言い、女性コメンテーターが「ちょっとかわいそうですね」などと言うのだ。

オッサンの悲哀

 1990年代中盤以降は「男のことは年代問わず揶揄してもいい」という空気感はまだ残っていた。それがよく表れたのが、J-Phone(現ソフトバンクモバイル)のCMだ。携帯電話で写真を送ることができる「写メール」を告知するもの。藤原紀香演じるOLが合コン現場へ行くと、そこにいる男性陣が全員ブサイクである。そこにイケメン集団から「今飲んでます!」と藤原に写真が送られてくる。藤原ら女性陣はブサイク軍団にサヨナラをし、イケメンとの合コンへ行く、というオチになる。

 だが、2000年代に入り氷河期世代が苦しんでからは若い男性を揶揄することはためらわれるようになり、社会で力を持っているとされるオッサン・オジサンが最後に残された揶揄対象となった。もちろん差別主義の女性や若者であっても揶揄・批判の対象にはなるが、「ただ存在するだけ」で揶揄していいのがオッサン・オジサンということだ。それこそチビ・デブ・ハゲ・臭い・加齢臭・キモい・キモオタなどに始まり「子ども部屋おじさん」や「おじさん構文」などもオッサン・オジサン揶揄の対象である。

 こうした風潮が、「サラ川」にも反映され続けたのである。そして2023年に発表された2022年版は「サラっと一句!わたしの川柳コンクール」とリニューアル。サラ川のニュアンスは残しつつもオッサン・オジサンの自虐は影を潜め、社会現象や日々の「あるある」を上位に選ぶ結果となった。「オッサンの悲哀」的なニュアンスからの脱却が果たされたわけだが、私自身「オッサン・オジサンだけは揶揄の対象としても許される」という風潮は奇異に感じていたため、今回のリニューアルについては賛同する。

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