甲子園で巨人監督にヘビを投げつけたファンも…昭和のプロ野球で本当にあった珍事件

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「これでよく顔を拭いてしっかり見てくれ」

 同様の判定をめぐる抗議でも、水原監督よりソフトなパフォーマンスを披露したのが、大洋・青田昇監督である。

 73年5月26日の巨人戦、1分けを挟んで8連勝と勢いに乗る大洋だったが、この日は連勝中の9試合で57得点の打線が機能せず、5回表を終わって、1対4とリードされていた。

 思わず抱腹絶倒の珍場面が見られたのは、その裏の大洋の攻撃中、4番・松原誠への関本四十四の初球を丸山博球審が「ストライク!」とコールしたのがきっかけだった。

 青田監督がベンチを飛び出し、「低いんじゃないか?」と抗議したが、もちろん判定は変わらない。すると、青田監督はベンチからタオルを取り寄せると、「これでよく顔を拭いてしっかり見てくれ」と言った。

 ユーモアたっぷりのパフォーマンスに、スタンドのファンは大笑いだったが、直後、富沢宏哉三塁塁審が内野の4審判を集めてヒソヒソ協議を始めた。

 近くでやり取りを見ていた沖山光利コーチが「(侮辱行為で)退場させろと言っていたよ」と報告すると、青田監督は「当該審判がいいと言うのに、塁審が口出しするのは越権行為だ」と大むくれになった。

 しかし、タオルで悪い流れを変えようというアイデアも不発に終わり、試合は2対9と完敗し、連勝ストップ。皮肉にも“お手上げ”でタオルを投げる結果になった。さらに完投で3勝目を挙げた関本にも「タオルで顔を拭けって言ったんでしょう。完全に審判を侮辱してますもの」と言われている。

 ちなみに丸山球審は、巨人・王貞治がベーブ・ルース超えの通算715号を記録した1976年10月11日の阪神戦で主審を務めたことでも知られる。長野県上田市の実家の老舗文具店(2017年に閉店)店頭には、打席で万歳をする王の背後で、しゃがむようにして打球の行方を確認する丸山球審の写真パネルが飾られていた。

球審を“抱っこ”でスタンドは爆笑

 最後は球場内の障害物をめぐって起きた投手と審判の微笑ましい珍ハプニングを紹介する。

 1976年4月8日の広島対ヤクルト、ハプニングが起きたのは、プレーボールの直後だった。広島の先発・佐伯和司が第1球を投じようとした直後、突然動作をやめると、タイムをかけて、太田正男球審をマウンドに呼び寄せた。一体何が起きたのか?

 実は、ネット裏に置いてあったカメラのレンズがマウンドに反射したため、佐伯は「眩しくて投球の邪魔になる」と懸念したのだ。だが、小柄な太田球審には障害物のカメラがどこにあるのか、マウンドの位置から確認することができない。

 その旨を告げると、身長180センチの佐伯は、「それならば」とばかりに、マウンド上で太田球審を軽々と抱き上げ、自分と同じ目の高さで障害物が見えるようにした。

 前代未聞の審判の“抱っこシーン”に、スタンドのファンが大爆笑だったのは、言うまでもない。

 広島、日本ハムで通算88勝2セーブを記録した佐伯は、現役引退後、広島のコーチやスカウトを経て、環太平洋大学硬式野球部監督、高知ファイティングドッグスコーチを務めている。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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