広島は「16点」も取ったのに試合に敗れた…“史上最大級の打撃戦”で何が起こったのか?

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打者10人の猛攻で振り出しに

 4回に2点を返した広島は、5、6、7回にも1点ずつ小刻みに加点し、7回を終わって10対16。6点リードはあっても、1イニングもゼロで抑えられないヤクルトにとっては、嫌な流れであり、逆に広島は「まだイケる」と勢いづいた。

 そして8回、溜まっていたマグマが噴き出すように爆発したカープ打線は、高津臣吾、山田勉の両リリーフに7安打を浴びせ、打者10人の猛攻で6得点。あっという間に試合を振り出しに戻した。

 だが、8回まで両チーム合わせて36安打32得点という史上最大級のノーガードの打ち合いは、ここから嘘のように鳴りを潜めてしまう。

 9回からは一転して広島・佐々岡真司、ヤクルト・山田、西村龍次の投手戦となり、延長13回までスコアボードに10個のゼロが仲良く並ぶ。

「前半はピッチャーが(大量失点して)迷惑をかけた。僕自身(不調で先発ローテから外れ)借りがありましたから。今日は何とかしたかった」(佐々岡)。

 時計の針が午前0時を回りかけ、引き分けムード(当時は15回引き分け制)も漂いはじめた14回表、広島は2死から走者を三塁まで進めたが、得点ならず。

 その裏、ヤクルトも1死から広沢の四球をきっかけに暴投と2四球で2死満塁のチャンスをつくる。

5時間46分の死闘に終止符

 次打者は、ミミズを食べるパフォーマンスで知られた8番・ハドラー。悪球打ちも目につき、チャンスには期待できないイメージがあったが、“意外性の男”は佐々岡の初球をゴロで中前に抜ける「メジャーでも経験したことがない」サヨナラタイムリーを放ち、5時間46分の死闘に終止符を打った。この結果、ヤクルトは、シーズン初の貯金「1」を実現し、同率首位の広島、阪神に1ゲーム差の3位に浮上した。

 一人で8打点を挙げ、本来ならヒーローになってもおかしくないのに、結果的に一番おいしいところをハドラーにさらわれた池山は、3回の1イニング2本塁打を「まるで昨日のことのような……」と振り返ったが、すでに日付が変わっており、本当に昨日の出来事になっていた。

 百戦錬磨の野村監督も「こんな試合、記憶にないわい。打ちも打ったり、打たれも打たれたり。今年を象徴する試合やった」とボヤキまじりに評したが、その後、5月23日に早くも首位を奪取したヤクルトは、終わってみれば2年連続のリーグ優勝と監督として初の日本一を達成。くしくも“最良のシーズン”につなげる分岐点とも言うべきビッグゲームになった。

 一方、16点も取りながら、勝利を逃した広島・山本監督はやや目を赤くしながら「ま、ええやろ。佐々岡はよう投げたね」と言うのが精一杯。同年は夏場以降失速して最下位に沈み、シーズン後に辞任した。

 130何試合の中のたった1試合ではあるが、結果的に勝者が栄冠を手にし、敗者がすべてを失うことになったのは、けっして偶然とは思えない。その意味でも、紛れもなく伝説の試合だった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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