大谷翔平に「質問はお一人様一つまで」の不文律 イチローとも松井秀喜とも違う番記者への“千本ノック”とは
WBCでの露出急増でファンを虜に
それが、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ではメディアへの露出が急激に増えた。大会前のメンバー発表の際には日本代表の栗山英樹監督と同席し、記者会見に応じたり、大活躍した大会中もその都度、ヒーローインタビューに登場したりとエンゼルスでのレギュラーシーズン中は、米国からなかなか届かなかった人間・大谷の思いが随所に聞かれた。「ベースボール・マシン」とは違った大谷の一面はファンを一層、虜にした。
前出のMLB担当記者はWBCが特別だったと強調した上で、こう語る。
「メジャーのシーズン中もWBCのような大谷取材ができればいいのだが、取材者として質問は一人、一つという縛りをポジティブに捉えると、大谷のプレーをよく観察し、質問は厳選することになる。取材に緊張感があったという点ではイチローと同じで、結果として記者のスキルは大谷に磨かれる」
そのイチローは全盛期のマリナーズ時代、メディアにも強いプロ意識を求めた。的を射ない質問はもちろん、野球への知識を欠いた質問には容赦しなかった。
「問いかけを無視することもあった。記者は逃げ出したくなるほど、ぴりぴりした雰囲気があった」(同前)
いつしかイチローの取材は、なじみの記者による代表質問の形式を採るようになった。
イチローと対照的に鷹揚だった松井秀喜
一方で同時期、ヤンキースでプレーしていた松井秀喜は巨人時代から遠征先で担当記者と食事に出かけるなど、メディアとの距離が近いスター選手だった。渡米後も共に草野球に興じるなど、鷹揚なキャラクターはイチローとは対照的だった。
「イチローはそういう松井に対し『記者を鍛えていない』と批判的だったこともあった。ただ、どちらも独自の信条や価値観を基にメディアに対応していた。どちらが正しかったとは言い切れない」
イチローはメディア対応にすら妥協を許さなかったからこそ、日本選手初のメジャー3000安打の金字塔を打ち立てられたのかもしれない。松井はその包容力で記者をも包み込んだからこそ、メディアが辛辣なニューヨークという大都市で長く、主力で在り続けたのかもしれない。
翻って大谷のメディア対応は、両者のそれとは一線を画している。
今オフ、エンゼルスと契約延長するにせよ、フリーエージェント(FA)になり、他球団と契約するにせよ、大谷の次期契約はメジャー史上最大規模になる見込みだ。名実共にメジャーの顔になり、これまで以上に一挙手一投足が注目されるに違いない。
仮に注目度や記者の数がエンゼルスとは比較にならないメッツやヤンキース、ドジャースなどに移籍した場合、今のような10分ほどのメディア対応で済まされるかどうか。ただ、そういう注目球団に移籍したとしても、大谷がちゃめっ気たっぷりに記者を手玉に取っている姿だけは容易に想像できる。
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