総再生28億回!TikTokの“バズる振付師”槙田紗子(29)が説く「8:2」のコツ
プロでも読めない「バズり」
もっとも槙田さんは振付師という仕事について、あくまで作品の一部だと考えている。「わたかわ」についても、総合力の勝利だという。
「振り付けってゼロイチの仕事じゃないと思うんです。100点の作品があるとしたら、振り付けをすることで、それを120点、150点にする仕事。踊る人がいて、歌う人がいて、楽曲があって、ダンスがある。それが全部が組み合わさった時、どう影響力を生むかです。FRUITS ZIPPERに関しては、デビューする前からメンバーそれぞれの知名度があって、SNSのフォロワー数もすごかったので、バズる可能性がもともとあった。本当にゼロからのアイドルだったらわからないです。いろんな要素を重ねても、それでもバズらないこともいっぱいあります」
逆に狙わなくても突然TikTokでバズることもある。
「いまバズっている『新しい学校のリーダーズ』の『オトナブルー』って、2020年の曲でライブでずっとやっている曲です。バズったダンスもずっとしていたし、『新しい学校のリーダーズ』自体フォロワーは昔から多かったですけど、それでも2023年に急にバズった。偶然というか、あれは狙っていないヒットだと思うんです。だからバズるときはバズる。たとえ踊りにくい難しい振りだとしても、TikTokに動画を上げる人が勝手にアレンジして簡単に変えてくれたりもします」
槙田さんはTikTokのバズは読めないとしみじみ語る。
そんな一例が槙田さんが振り付けを手がけたアイドルグループ「超ときめき♡宣伝部」の「すきっ!」の世界的なヒットだ。楽曲自体の発表は2018年だったが、TikTokでバズったのは2021年と3年のタイムラグがあった。
「『すきっ!』のヒットは奇跡です(笑)。まだグループ名が『ときめき宣伝部』だった2018年に発売されたアルバムのリード曲で、当時はTikTokは全然浸透していなくて、振り付けもTikTokを意識せずにつけていました。それがコロナのタイミングで音源がまずTikTokで突然バズって、その後に本家の振り付けをみんな踊るようになりました」
「すきっ!」の人気はやがて韓国にも広がり、世界的人気のK-POPアイドルたちも槙田さんが作った振り付けを踊り始めた。
「『すきっ!』については、もう国境を超えました。もともとK-POPが大好きなので、ITZYのリュジンや、LE SSERAFIMの宮脇咲良ちゃんが踊っているのを見たときは、すごく感動しました」
楽曲では、「すき」と何度も繰り返す歌詞にのせて、手でハートマークを作ってステップを踏むが、槙田さんはこの簡単かつコミカルな振りが受けたのではないかと分析する。
「『すきっ!』はふざけられるんです。全力であの振りをするのが、韓国の方も面白いと感じたんだと思います。振り付けを作る時にTikTokは意識してなかったのですが、当時のスタッフさんに『おじさんが全力で踊って、かわいらしいダンスにしてほしい』って言われ、元々作っていた振りを今のものに変えたんです。その間口の広さが、のちのち国境を超えて受け入れられた理由だと思いますし、スタッフさんのあの指摘は本当にすごいと思います」
さらに槙田さんは「わたかわ」「すきっ!」ともに、バズを一過性で終わらせなかった戦略も大きかったと振り返る。
「『すきっ!』が数年たってバズったことにはメンバーも私もびっくりしていました。でも超ときめき♡宣伝部のスタッフさんはそこからすぐに動いて、新しいバージョンの音源を出したり、ミュージックビデオを撮り直したりと、すごくアプローチされていました。その結果、1年くらいずっとバズり続けたんです。『わたかわ』の時も、バズりをそのままにせずに動いたから、こんなに人気を引っ張っている。事務所さんなどが運営努力をきちんとされているなと見ていて思います」
TikTokでのバズりが、世界を一変させる。
「この間、ゲームセンターで若い女の子が『太鼓の達人』で『わたかわ』を叩いていて、すごっと思いました。私がアイドルだった時代って、アイドルがテレビに出られたり、もっと一般的だったと思うんです。だけど、今って坂道系だったり本当に一部のグループしかテレビには出られなくて、なかなかアイドル業界の枠を飛び出していけない。そんな状況の中、FRUITS ZIPPERは余裕でその枠の外に飛び出したんだなって思って。FRUITS ZIPPERのライブに行くと今はそれまでアイドルのライブに行ってなかったような女の子がめちゃめちゃいます。本当にすごいことが起きてるなと思います」