「第三者委員会」が信用できないワケ 東京五輪、企業不祥事、いじめ問題が解決しないのはその構造に問題があった!

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 企業や役所、あるいは学校などで、不祥事が起きれば設置されることが多い「第三者委員会」。有識者や弁護士らが委員に名を連ね、結果も公表される。だから、当然、きちんと真相究明がなされているはず。そう思う人は少なくない。

 だが実際は、それが疑惑追及の隠れみのとなり、関係者が都合よく身の潔白を証明する道具と化していることも珍しくないのだという。

 本来、そういう隠蔽(いんぺい)やゴマカシをなくすための第三者委員会だったはずなのに―――。

 正しく第三者委員会を機能させるためにはどうすればよいのか。佐藤優氏は著書『国難のインテリジェンス』の中で、「第三者委員会報告書格付け委員会」の一員で会計のプロフェッショナルでもある八田進二氏と共にこの問題を議論している。八田氏は、第三者委員会の報告書を検証するという作業を行ったうえで、その現状に疑問と危機感を抱いているようだ。

 客観的に見ると、真相究明や問題の根本的な解決ではなく、メディア対策や不祥事を起こした側の「禊(みそぎ)」のツールになっているのではないか、と。まずはその実態についての話を聞いてみよう(全2回の1回目・以下、佐藤優氏の新著『国難のインテリジェンス』を再編集)

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佐藤 八田先生が2020年4月に上梓された『「第三者委員会」の欺瞞』を非常に面白く拝読いたしました。「第三者委員会報告書格付け委員会」を作って報告書を評価していく、という発想が興味深いですね。

八田 不祥事が起きて第三者委員会が設置されると、どのメディアも「どこまで真相に迫れるか、注目される」式に原稿をまとめますが、それが実際にきちんと評価されることは滅多にないんですね。実は報告書は玉石混淆で、酷いものもたくさんあるというのが実態です。

佐藤 確かに第三者委員会の報告書を検証するという報道は、あまり見たことがない。

八田 そうした状況ですから、2014年に弁護士の久保利英明(くぼりひであき)氏が中心になって、報告書の格付け委員会ができました。久保利氏が委員長となり、9名で構成されています。内訳は弁護士が5名、ジャーナリスト2名、法科大学院教授1名、そして会計のプロフェッショナルとして、唯一、私が名を連ねています。

佐藤 各人がAからD、Fの5段階評価を行い、Fは不合格と手厳しい。

八田 第三者委員会というやり方が定着し慣行になるなら、やはり信頼しうるもの、社会に求められるものにしていったほうがいいはずです。基本的に社外に公表されますから、公共財として信頼に足るものでなければなりません。

ヤメ検のビジネス

佐藤 年間どのくらいの数の第三者委員会が設置されているのですか。

八田 2019年度だと73件です。これは公表されている企業関係だけの数字で、いじめに関する学校の第三者委員会などを数えると優に100は超えると思います。だから3日に一つ設置されていることになる。

佐藤 それらの多くが真相究明どころか、企業の「禊(みそぎ)」として使われているという指摘は、うなずけるものでした。

八田 第三者委員会に価値を見出したのは、まず企業のトップや経営陣です。不祥事を起こした経営者は連日のように批判の矛先を向けられます。そこでは誰かが何かを答えなければなりません。また手をこまぬいていると、メディアが独自の取材を始めて、隠し通したい事実を探り当ててしまうこともある。そんな時に第三者委員会の設置を発表すれば、状況は一気に変わります。

佐藤 メディアはいったん矛を収める。

八田 その通りで、設置した時点でおとなしくなってしまうのです。

佐藤 そして報告書を待ちます。

八田 第三者委員会を設置して、だいたい2~3カ月後には報告書が出ます。でもメディアは2~3カ月も待てないんですね。そのため、報告書が出たころには関心が薄れてしまっていて、記事は小さなものにしかならないし、その検証もしない。公明正大な第三者委員会が出した結論だから、それをメディアはそのまま受け入れてくれる。そうなれば、企業としては不祥事の幕引きができるわけです。

佐藤 そこには第三者委員会のメンバーへの信頼があるわけですが、ほとんどは弁護士です。八田さんは、弁護士の新しいビジネスだと指摘されていますが、その中でも特に「ヤメ検」(検察官OBの弁護士)のビジネスではないですか。

八田 そうですね。元裁判官もいますが、もっとも好まれて選ばれているのは、ヤメ検です。

佐藤 ヤメ検は、一時期は特捜部の扱う事件などの弁護で重宝されていました。ただ基本的に事実関係を認めて執行猶予を取りにいく戦法です。だから失敗すると実刑になるし、その確率も高く、費用もかかります。それで最近は人権派弁護士に頼むという流れができてきました。こちらは費用が安いし、執行猶予を取れる可能性も高いと私は見ています。だからヤメ検に格好のビジネスが見つかったのだと思いました。

八田 法曹界全体としてもそうで、司法制度改革で2004年に法科大学院が誕生し、司法試験合格者が大幅に増加します。それで大量の弁護士余りという現象が起きました。そこへ現れた第三者委員会は、弁護士業界にとっては「過払い金返還請求ビジネス」と並ぶ大きなビジネスチャンスでした。いまや第三者委員会専門の事務所もあるようです。

佐藤 ヤメ検が真相究明にあたると、「筋読み」をして、悪いのはこいつと決め、あとはパッチワークでそれに合うデータを集めていく。そんなやり方が多くないですか。

八田 だいたいシナリオは最初にできている感じですね。

佐藤 あの人たちはシナリオライターとして腕が立ちますから。

八田 高校時代の友人にヤメ検がいますが、自分たちは第三者委員会の委員には相応(ふさわ)しくなく、結局は犯人探しをしてしまうと言っています。ただ、第三者委員会は責任追及委員会ではなく、真相究明委員会です。だから弁護士も必要ですが、問題となった分野の専門家が関わるのも大事なことです。

佐藤 そこで八田さんのような会計のプロが入って数字を見ると、問題が違って見えてくるわけですね。

八田 私に声が掛かったのも、格付け委員会に会計の専門家がいなかったからです。私はもともと第三者委員会には懐疑的だったので、最初はお断りしようと思った。でも当時、第三者委員会が設置される案件の多くが不適切会計だったのです。

佐藤 企業なら、最終的にはお金の問題になりますから、会計は最重要です。

八田 そのころまで東証は、巨額の不正があると一発で上場廃止でした。それが、直ちに廃止するのではなく、まずは自助努力によって膿を出させ、監理銘柄にするなどお灸は据えるけれども、再生を待つような流れに変わりつつありました。

佐藤 それは正しい方向性ですね。

八田 ところが自助努力の一つとなる第三者委員会のメンバーのほとんどが法律家で、彼らは会計の理論や基準をほとんど知らない。

佐藤 簿記もできないかもしれないですね。

八田 弁護士資格で税理士登録することは可能ですが、大半は会計を知りませんよ。彼らがかつて行われた会計処理や手続きの正当性、妥当性を判断している。そんなことは無理です。会計には主観的要素もあって、一義的に答えが出ないものがたくさんあるのです。

佐藤 そこがヤメ検の犯人探しとは決定的に違うわけですね。

八田 私が格付け委員会に入る時に念頭にあったのは、日本長期信用銀行と日本債券信用銀行の事件でした。両行とも1998年に破綻しますが、その際、ともに旧経営陣3名が起訴されています。

佐藤 誰かに責任を取らせないと収まりがつかない状況でした。

八田 あれは10年以上も争って、どちらも全員無罪になっています。ともに会計処理の適切性が問われたのですが、当時、金融庁が新しく作った金融検査マニュアルの基準通りにやっていないことが問題になった。でも会計の世界から見ると、いったん採用した会計処理方法は、特に支障がない限り継続適用することに問題はないのです。しかも金融庁のマニュアルは検査官の手続き規定で、一般に認められた企業会計の基準ではない。

佐藤 10年後に無罪になっても、名誉はほとんど回復されません。それどころか、読売新聞の社説では、刑事責任は否定されたが、道義的責任は免れないと書かれていました。

八田 とても不幸な事案です。だから会計上の問題を法律家だけで議論することには限界があります。会計のみならず、第三者委員会はそれぞれ問題となった分野の専門家を入れて組成しなければなりません。

 全2回の記事の2回目【「第三者委員会」はあきれるずさんな後始末の“温床”か 東京五輪、企業不祥事、いじめ問題を取り巻く調査のワナ】へつづく

『国難のインテリジェンス』より一部抜粋・再構成。

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佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。作家。同志社大学大学院卒。85年外務省入省。外務本省国際情報局分析第一課などで勤務。2002年背任・偽計業務妨害容疑で逮捕。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』

八田進二(はった・しんじ)
1949年愛知県生まれ。青山学院大学名誉教授。慶應義塾大学経済学部卒。早稲田大学、慶應義塾大学の大学院に進んだのち青山学院大学で博士号取得。富山女子短期大学、駿河台大学を経て、2001年に青山学院大学経営学部教授、05年同大学大学院会計プロフェッション研究科教授。現在は大原大学院大学教授、金融庁企業会計審議会委員なども務める。八田氏がメンバーの第三者委員会報告書格付け委員会のHPはwww.rating-tpcr.net

デイリー新潮編集部

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