人口増加率6年連続トップ「流山市」は何がスゴい? 新設中学校の校則が全廃に
数字を読まない日本人
大西 ロンドンには特派員として4年間いたのですが、やはりものの見え方が変わったところはありますね。
藻谷さんの『デフレの正体』を読んだのはもうだいぶ前のことです。私は日経新聞でずっと経済記者として中央官庁や大企業の取材をやっていて、日本経済の停滞は、国際経済競争に負けたからだと単純に思っていたのですが、あの本を読んで全然違うじゃないか、と気が付いたんです。日本の輸出額はバブル期よりずっと多いし、経常収支もずっと黒字なんですよね。
藻谷 ありがとうございます。ところがその肝心なところを読んでくださっている方は、少ないんですよ。
本の中で、「日本人の問題は、SY(数字を読まない)、KY(空気しか読まない)、GM(現場を見ない)、だ」と書いたのですが、特にSYは今でもひどいものです。
「日本は国際競争に負けた」という空気に浸り、昨年の輸出額が、円ベースでもドルベースでも史上最高水準であることに誰も気付いていない。でも無用な円安誘導で、化石燃料代が高騰し、貿易収支は大赤字。さらにそれ以前、アベノミクスの間に、日本の名目GDP(ドルベース)は2割も減少したのですが、誰も数字を見ていません。
ナショナルな発想では、経済はわかりません。ローカルな視点で輸出企業の現場を見ればフル稼働状態なのに、グローバルにドル換算してみれば日本経済は縮小している。「そうか、稼いだ外貨が人件費に回らず、消費に回っていないのか」と、現実に気付くには、頭がグローカルでなくては。
大西 本当にそうですよね。ローカルを見ないとリアルはわからない。
藻谷 そんな日本の中枢にいる人たちの「江戸幕府っぽさ」と比べると、流山は、商売人中心に自治運営されている昔の大坂というか、とにかく動きが速くてダイナミックですね。
先ほどの話との関連でいうと、今の流山で面白いことをやっている人たちも、子供が生まれるまでは、どっぷりナショナルなんですよ。彼ら彼女らにとって、流山は単なるベッドタウン。霞が関や丸の内で、自分たちが日本を背負っているつもりで一生懸命働いて、寝に帰ってきている。
でもそれが、妊娠した、子供が生まれた、子育てに入ったという段階を経て、いったんナショナルから切り離されます。日本を背負って霞が関や丸の内で働くということはさておき、保育園の問題を含めて、子育てと自分の仕事をどう両立するかという現実の問題が、眼前に迫ってきますからね。
そしてたまたま人口15万人(05年時点)の小さな街で、有名になった送迎保育ステーションをはじめ、市長が徹底的に子育て支援をやったら、一旦、ナショナルから強制離脱させられた子育て世代の人たちが集まってきちゃった。
集まってきて、子育てしている期間はナショナルから切り離される。そこで生まれて初めてローカルに目が向くわけです。「うちの子が育つ街」を考えたときに、ナショナルなことよりも、これまではあまり考えたことのなかった、自分の子供を取り囲む環境のほうが大事じゃない?みたいな感じになる。
藻谷 ローカルな問題に、ナショナルな解決はありません。必要なのはローカルな行動で、その際にはグローバルな視野も必要なのです。まさにそれを実践したのが、流山市長でした。
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