中国の地方政府は外資誘致活動に躍起…だが、その足かせとなる評判の悪い政策を習近平指導部が進めている
事前予想を軒並み下回った4月の経済指標
ゼロコロナ政策を解除した中国で、経済の先行きへの懸念が強まっている。今年4月の経済指標が事前の予想を軒並み下回ったからだ。
4月の工業生産は前年比5.6%増となり、市場予想の10.9%増を下回った。小売売上高は前年比18.4%増だったが、昨年の反動の影響が大きく、市場予想の21.9%増に届かなかった。飲食などの需要は好調だが、自動車など耐久消費財の需要は低迷したままだ。先行きが不安で「小さな買い物」しかできない状況が続いている。
中国経済を長年けん引してきた不動産業も不調のままだ。ロイターの算出では、4月の不動産投資は前年比16.2%減少した。3月の7.2%減少と比べて落ち込み幅が広がっている(5月16日付ロイター)。
中国の銀行で、不動産業界向けの不良債権が増え続けていることも気になるところだ。
2022年末時点で、4大国有銀行の不良債権の総額は前年比6割増の1800億元(約3兆6000億円)と、直近10年間で最大となっている(5月16日付日本経済新聞)。経営危機から1年以上が経った中国恒大集団は、再建の目途も立っていない。
中国の金融活動全体も振るわなくなっている。
中国人民銀行(中央銀行)が発表した4月の人民元建て新規銀行融資は、前月の3兆8900億元(約78兆円)から7188億元(約14兆円)に急減した。
人民銀行によれば、住宅ローンを前倒しで返済する動きも広がっており、中国でも信用収縮の動きが生じている。
「露店経済」で若年者雇用は拡大するか
中でも気がかりなのは、若年層の雇用環境の悪化が止まらないことだ。
4月の若年層(16~24歳)の失業率が20.4%と前月の19.6%から上昇し、昨年夏に記録した19.9%を上回った。景気の回復ペースが鈍化し、職探しで苦労している大学生が多いことが過去最高を更新した理由だと言われている。
中国では過去3年間で就業者数が約4100万人も減少したのにもかかわらず、新たな労働力を十分に吸収できないでいる。極めて深刻な状況と言わざるを得ない。
事態を重く見た中国政府は対策に乗り出している。
「若年者雇用優先政策を全面的に実施し、市場ベースの就業経路を全力で開拓する」との方針を示している中、話題を呼んでいるのは「露店経済」を後押しする動きが各地で広がっていることだ(5月11日付日本経済新聞)。
広東省深圳市は都市の景観や衛生に関する条例を改正し、9月から露店の出店規制を緩和して、屋台などの出店を促す措置を講じている。上海市も歩行者天国や夜市での屋台出店を促す方向で検討している。
地方政府の狙いは、リベンジ消費(自粛生活の反動として期待される消費)が起きている外食や旅行などサービス業での雇用の大幅拡大だが、習近平指導部はあまり乗り気ではないとみられている。
2020年5月、李克強首相(当時)は「露店経済は雇用を生み出す重要な源だ」と推奨した。露店などの設置を認めた四川省成都市で2カ月間に約10万人の雇用を生んだ実績を踏まえての発言だったが、習近平国家主席がこれに「待った」をかけた経緯がある。
「治安対策や景観保護にとって無秩序な屋台の出店は好ましくない」というのが表向きの理由だが、「習氏と李氏との間に政治的な確執がある」と噂されていた。
だが、「背に腹は代えられない」。習近平指導部は渋々屋台の出店を認めたようだが、今回の規制緩和でも「景観保護の観点から無秩序な露店設置は認めない」との厳しい条件を付けており、「地方政府が進める雇用対策が十分な効果を発揮できなくなるのではないか」との声が出ている。
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