戦車も弾薬も軍服も全部足りない…次々明らかになるロシア軍の惨状を見て今ウクライナ軍が考えていること
補給の差
新型コロナが世界中で猛威を振るった2020年以降も、戦車バイアスロンは実施されてきた。ところが、今年は初めて中止になっただけでなく、「今後は2年に1回とする」と隔年開催が発表されたのだ。
「その背景として、戦車も戦車兵も枯渇している可能性があります。無敵を誇ったロシアチームのT-72ですが、ウクライナ軍によって3両のうち2両は破壊され、1両は鹵獲されたほか、戦車兵の戦死も確認されています。一方のNATO(北大西洋条約機構)軍は5月1日から戦車バイアスロンに似た『アイアンスピア演習』を実施、こちらも射撃の技能などを競い、イギリスのチャレンジャー2が優勝しました」(同・軍事ジャーナリスト)
ちなみに今年のアイアンスピア演習は、ロシアやベラルーシと国境を接するラトビア共和国で実施された。戦車バイアスロンが中止に追い込まれたロシアに見せつける意図があったのは間違いないだろう。
「ロシア軍の苦境は、SNSなどにアップされた兵士の服装や装備品の写真を見ても分かります。服装は汚く、破損も目立つ。特に調達兵は軍服や武器が自弁で、ゴム長靴を履いた兵士がいるほか、手にする小銃も非常に古いものばかりです。一方のウクライナ軍は苦境を伝えられた緒戦時からNATO仕様の清潔な軍服に身を包み、ベルトやチャックといった部分も壊れていませんでした。対照的な軍服の様子から、ロシア軍は補給に苦しみ、ウクライナ軍の兵站は充分に機能していることが分かります」(同・軍事ジャーナリスト)
臥薪嘗胆
ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏(61)はSNSなどで何度も弾薬不足を訴えてきた。軍や政府を恫喝するような動画もあり、日本でも大きく報じられている。
「もちろん情報操作の疑いもありますが、ワグネルの兵士が着ている軍服は、ロシア軍の兵士よりはマシです。とはいえ、昨年の段階で北朝鮮の砲弾と銃弾がウクライナの最前線に送られたという報道もありました。ロシア軍が深刻な弾薬不足に陥っている可能性は充分にあり、いくらプリゴジン氏が補給を求めて軍や政府に迫ったとしても、そもそも送れる弾がないのかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト)
2014年のクリミア危機でロシア軍がクリミア半島を実質的に占領したため、ウクライナ軍は弱いという評価が定まってしまった。しかしその後は、まさに臥薪嘗胆の思いで軍の増強を続けてきた。
「ロシア軍の侵攻時、ウクライナ軍の兵力は約19万人でした。さらに、国家親衛隊が約6万人、国境警備隊が約4万人で、合計30万人に近い戦力だったのです。一方のロシア軍の兵力は開戦当初、約15万人だったことが最新の調査で分かりました。要するに、最初からロシア軍は戦力不足だったのです。確かに、一部のウクライナ軍は緒戦で混乱に陥って敗走しました。それでも何とか持ちこたえて反撃に転じたのは、戦力差から考えても当然の結果だったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
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