「枯れた技術」を使って新しい市場を作り出す ――宮本彰(キングジム社長)【佐藤優の頂上対決】
オフィスから生活全般へ
佐藤 これからデジタル化や働き方の変化で、オフィス用品市場は縮小していきます。その中でどういう方向に事業展開されていきますか。
宮本 オフィスから書類がなくなることはないと思いますが、ファイルの売り上げはピーク時に比べ4割くらいになっています。ですから、ファイル、テプラにつぐ第3の柱を見つけなければならない。そこで最近、力を入れているのがM&A(合併・買収)です。日用雑貨や家具の会社をグループ化しています。
佐藤 例えばどんな会社ですか。
宮本 2001年にフォトフレームの会社を買収したのですが、いまはそこが「Toffy」というブランド名でトースターやコーヒーメーカーなどのキッチン家電を作っています。これがコロナ禍で非常に伸びました。
佐藤 巣ごもり需要ですね。
宮本 はい。家にいる時間が長くなり食事もするので、キッチン家電は大きな市場になっています。
佐藤 フォトフレームからキッチン家電に広げたのは、大きな挑戦ですね。いろいろやってみるキングジムの社風が生かされている。
宮本 熱を出すものはなかなか扱うのが難しいのですが、私どもにはテプラやポメラで培った電子機器、電気製品の経験がありますから、徹底したクオリティー管理ができるのです。
佐藤 グループ会社では、主に普段の暮らしに関係する商品を展開されているのですか。
宮本 はい。2014年に買収した「ぼん家具」という会社もあります。いっさい店舗を持たないネット販売専門の家具店で、商品は中国などに製造委託しています。これもコロナ禍で大きく伸びました。
佐藤 確かにコロナ禍で、家具が伸びたといいますね。
宮本 家具はどうしてもかさがあるため、運賃が高いんです。だから商品は組み立て家具ばかりなのですが、それがよかった。家にいる時間が増えたので、組み立てる時間ができたんですね。そもそも組み立て自体楽しいですし、うまくできると父親は家族から褒められたりする。するとまたやってみようという気にもなります。
佐藤 どんな家具が売れましたか。
宮本 本棚や多目的ラックなどの収納家具ですね。ただ、いまは反動で一時ほどの勢いがなくなっています。その一方で伸びているのが、造花です。2008年にグループ化したアスカ商会の商品ですが、いまの造花はクオリティーが高く、触ってみないと生花との違いがわからない。
佐藤 これまであまり注目されてこなかった分野ですね。
宮本 その通りで、日本人はニセモノが嫌いですから、造花という言葉からして受けつけない。でも欧米ではアーティフィシャルフラワーと呼ばれて大きな市場があり、専門店まであります。ですから日本でもこの市場が大きく伸長する可能性は十分にあります。いまその兆しが見えています。
佐藤 造花でなく、オブジェとして捉えればいい。
宮本 その通りです。いまはこの三つが期待の子会社ですね。
佐藤 本社ではオフィス用品の商品開発を続けつつ、グループ会社でも、さまざまな挑戦をされている。
宮本 「独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する」ことが、私どもの理念です。グループ会社も含めて、今後も新しい市場を生み出す商品開発を続けていきます。
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